「あ、きれいな声で鳥が鳴いてますね。……朝の山歩きも気持ちいいですね」
「おや、朝の山歩きは、姫君のお言葉とも思えないね」
「私は友雅さんの知ってる姫君とは違うんです。それにお姫さまじゃなくて、
龍神の神子でしょう?」
「そうだったね。時々忘れそうになるのだよ」
「朝一番早く迎えに来て私のしたくを待ってるなんて、以前の友雅さんなら、
考えられないって聞きましたよ」
「聞き捨てならないことを言うね。いったいどなたが私のことを神子殿に
悪く告げ口なさるものやら……。私が神子殿を恋い慕うことを、厭う者が
邪魔をするのかな。こわいこわい」
「……だから、どうして、そういう言い方……」
「困ったな。信じてくださらないの?」
「友雅さんは信じてもらおうなんて思ってない気がするんですけど」
「私に、あのほととぎすのように麗しく啼く声があれば、神子殿も少しは
私の訴えに耳を傾けてくださるのかな」
「耳元でささやくのやめてくださいっ! 友雅さんの声は響くんですから」
「ふふっ、元気な小鳥だ。松山に登ってほととぎすの鳴く声を聞いていると、
私の恋心もいや増すようだよ」
「からかうのは無しです! ……今日は二人しかいないんですから、
怨霊が出てきたら、友雅さんも本気で戦ってくださいね」
「それが君の望みなら」
「命令したいわけじゃないんです。わかってくれないのは友雅さんも
一緒じゃないですか」
「すまないね。私だって神子殿にそんな顔をさせたくはない。本当に
ただ君と二人だけで出かけたかったのだよ」
「……あのきれいな鳴き声は、ほととぎすなんですね」
「ああ……美しいね。私もああして、ただ無心に想いを託せばいいの
だろうね……」
「友雅さん、わざと私をからかってるでしょう」
「とんでもない。君のご機嫌を直したくて必死だよ」
「だから耳のすぐ横でしゃべらないで下さいってば!」
二人がまるでじゃれあうようにして朝の山を歩く姿を見ているのは、
高らかにさえずるほととぎすだけだった。
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