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浮雲のいさよふ宵のむら雨にをひ風しるくにほふたち花
藤原家基





「友雅さん! こんな雨の夜に外で突っ立って、何してるんですか!?

すっかり、びしょぬれじゃないですか。病気になったら大変!」


「ああ、神子殿……、君が京を救ってくれたおかげで、やっと雨が降る

ようになったね」


「私じゃなくて、龍神様のおかげですよ」


「四神の呪詛を解いたのも、龍神を呼んだのも、君だよ。乾いたこの地

を潤す村雨にそぼぬれるのも乙なものだ。君を訪ねて、ここまで来たら

ゆかしい香りに、つい捕らわれてしまってね」


「……大丈夫ですか? 友雅さん」


「そんな心配そうな顔をしないで。君がこうして自ら庭先へ迎えに出て

来られるとは思わなかったよ。本当に風のような人だね。君という追い

風が、この雨の宵にかぐわしく薫っていたのだね」


「奥にいても橘の香りがしたんですよ。それで、友雅さんが来たんだと

思ったの」


「ただよう浮雲をやすらわせてくださるつもりはあるかい?」


「早く中に入って、着替えてください。ほら、髪もこんなに」


「君が濡れてしまうよ」


「こんなにいい匂いがするなら、かまいません」


「うれしいことを言うね。それなら、どうか私を入れておくれ」


 袖を取り合う二人が去った後に、さらに薫る花の香が残った。






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