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行やらで山地暮らしつほととぎす今一声の聞かまほしさに
源公忠





「友雅さん、もう帰らないと……日が落ちますよ」


龍神の神子であるあかねが外へ出かける時は、たいていの場合、二人の

八葉が同行することが多いが、今日は朝一番に顔を出してくれた友雅と

二人っきりの外出だった。


 双ヶ丘にやってきて、五行の具現化という神子の役目を果たした後は、

一休みしようと誘われるままに、そこへ留まり景色をながめながら色々

な話をした。

 友雅は特に話し上手で聞き上手だ。

 はっと気が付いたら、すっかり遅くなってしまった。


「おや、もう帰るのかい?」


「だって、じきに暗くなりますよ。足元が見えなくなったら大変です。

お屋敷で待ってる藤姫も心配するし……」


「大丈夫。そうなったら神子殿を背負って帰ってあげるから」


「友雅さんが私をですか?!」


「当たり前だろう。何をそんなに驚くの」


「ダメですよ! 私、重いしっ!!」


「……神子殿は私が武人であることをお忘れのようだねえ」


「そういうわけじゃないですけど、友雅さんにそんなことさせられませ

んよ。だめだめ。絶対だめ!」


「ふふ」


「何が、おかしいんですか?」


「いや、遅くなってしまったのは君のせいなのにと思ってね」


「どうして私の!?」


「君がそうやって可愛らしくさえずる声を聞きたくて、あと一声と、

つい長居をしてしまうのだから……ね」


 言われてみるみる真っ赤になった顔を、夕焼けのせいだと、ごまかせ

るか心許ない夏の夕暮れ。






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