友雅があかねに妻問いをしてめでたく結ばれてから、これほど長い間、離れる
ことになったのは初めてだった。
「主上の勅命とはいえ、君を京に残して遠くへ出かけるのは身を裂かれるように
つらいものだね」
「私なら大丈夫ですよ。お留守の間は藤姫のところで待っていますから友雅さん
は、安心してお仕事してきてくださいね」
「この家でひとり置いていくのも心配だが土御門へお預けするのも気がかりなの
だよ。あそこには私を恨む人が多いから」
「え?! まさか!」
「本当だよ。京に残ってくれた神子殿を私がさっさとさらってしまったからねえ」
暁の共寝の床で、友雅はあかねを引き寄せて笑った。
ふわりと夏の香がふたりを包む。
「橘の匂いがしますね……」
「ああ……本当だ。庭の橘も風に散っているのだね。では、この香を袖に移して
行く先で抱いて寝ることにしよう。愛しい君の手枕の代わりにね」
「だったら私も同じことをして待っていますね」
「うれしいよ。可愛い人」
離れている間も同じ思いを分かち合おうと約束する。
花橘の香はこうしてふたりの懐かしいよすがになるのだ。
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