あかねが龍神の神子として京へ召還されてから二ヶ月ほどが経ったある日。
友雅と出かけて怨霊を封印しての帰り道も、まだ日は暮れず道は明るい。
「五月は、もうすっかり夏なんですね。私が京に来た頃より、ずっと日が
長くなったし……」
「夏の短夜の話かい? いやいや、実は私は近頃、夏の夜が短いというのは、
とんでもない思い違いではないかと考えるようになったよ。まったく夜の長
さを持てあますほどだ」
「どうしてですか? 友雅さんなら夏は夜が短くて物足りないって言うかと
思いました」
「神子殿は、なぜそのように思うのかな。私が悪い夜遊びばかりしてるよう
に見えるのだろうか」
「……あ、ごめんなさい。そういうわけじゃ……っ」
「フフ、怒っていないから安心しなさい。藤姫や土御門の花々に、私の噂を
聞いていれば無理もない。実のところそんな風に感じるようになったのは、
この夏が初めてなのだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。神子殿を想ってのひとり寝は随分とつらくて……ね」
「え……ええっ?!」
「早く夜が明けて神子殿のもとへ参じたいと、そればかり願う夜の何と長い
ことか。本当にどうしたものだろう」
「友雅さん……また、からかって……」
「信じられない? 毎朝、どの八葉よりも早く神子殿のご機嫌をうかがいに
はせ参じていると思うのだけれどねえ」
「あ……それは……」
今朝も朝一番に友雅に誘われて、ふたりで出かけたのは確かだ。
そう言って友雅は、戸惑うあかねの頬に血が上るのを嬉しそうにながめつつ、
ゆるゆると帰路を行くのだった。
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