「ああ、今年の春もまた共に花の盛りを迎えることができたようだね」
「うれしいです」
「君のその素直さが何とも好ましいよ。ねえ、神子殿」
「どうしたんですか? 友雅さん」
「この頃、よく思うのだよ。毎年、いずれ花の盛りはめぐり来るものだ。
けれど、私がその花と再び会えるかどうか」
「会えますよ」
「君はまだ若いから、すぐにそう答えることができるね。だが私のよう
に年をとったものは、なかなか……」
「友雅さん!」
「おや、そんな心配そうな顔をしないで。別に悲しいことではないよ。
来る春に再びめぐり会えるどうか知れないのは人の世の常だもの。
老いも若きも関係なかったね」
「友雅さんを好きにならなかったら、私はこうして京に残っていないし
こんな風に花を見て一緒に過ごしたりしてないですよ。そうでしょう?」
「君という花に逢いあえたのだから、添い遂げるにふさわしい命に
恵まれたと信じたいな」
「私、もしこれが最後の春でも悔いのないように楽しむことにします」
「それはいい。私も君に習うとしようか」
「ちょっ……どこさわってるんですか! 悪さは無しですよ、悪さは!」
「悪さなものか。花を愛でているだけだよ。ね?」
散る花を飽きずながめて寄り添う二人に春の宵は優しく更けていった。
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