「友雅さん見てください! 花の木に霞がかかって夢みたい」
「神子殿、もうそのくらいにしておきなさい。怨霊封印に力の具現化、
今日はもう十二分に働いたよ。こんな北山の中で日が暮れては大変だ」
「ごめんなさい。でもこんなにきれいな景色は胸にしまっておきたくて」
「その気持ちはわからぬでもないけれど無理なことだと思わないのかな。
いくら大事にしたところで、とどまってくれるものではないのに」
「え?」
「そう……神子殿に似ているよ。あの春霞は帰り道の方角に立っていて、
そして、すでに発たれているようなものだから……」
「友雅さん、どうしたんですか? 私が何か……?」
「神子殿のせいではないよ。ただ君も春霞のようにとどめることが
できないと、己に言い聞かせていただけさ」
「私は霞みたいに消えたりしませんって」
「そう願いたいものだね。では、私が叱られないよう力を貸しておくれ」
「と、友雅さん! あ、あの、そんな風にしなくても、ちゃんと歩いて
帰れますからっ!」
「君が春霞とは違うと私に信じさせてくれたら……ね」
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