「野山や、庭に花が咲いて、もうすっかり春ですね。京もずいぶん
落ち着いたし、のどかな心地って、こんな感じでしょうか」
「確かにおだやかな陽気ではあるね。だからと言って必ずしも春が
のどかな季節でないのが悩ましいよ」
「うーん、ぽかぽかしてゆったりできると思うんですけど」
「花の盛りに心静かにしていられる人はいないと最近私も己の身で
知ったのだよ。盛りの花に罪はないけれど人の心を騒がせるね」
「あぁ確かにとても綺麗な花を見たりしたらどきどきします!」
「そう……君こそまさに花盛りだ」
「ええっ、私ですか?」
「春を迎えて、すっかり美しくなられたのを、ご存知ないのだね。
天に帰ってしまわないか、あやしき輩にさらわれやしないかと、
私は不安でならないよ。こんな物思いも君と出会って初めて知った
のだから、人の行く末など、わからぬものだ」
「そういう意味なら友雅さんが、一番人騒がせな花じゃないですか」
「おや、ならば私たちは似合いの対だね」
微笑み合う二人の庭で、春風が静かに花を散らしていた。
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