「梅がみごとに咲いたって藤姫からお文が来たんです」
「おや、花にかこつけて、また神子殿を呼び寄せようというおつもりだね。
こわいこわい」
「……友雅さん考え過ぎですよ。なんでもない季節のお便りじゃないですか。
私は京にお友達もほとんどいないし、初めてこっちで春を迎えるんですから、
そんな風に言わなくても!」
「怒らないでおくれ。私は臆病ものなのだから」
「友雅さんが臆病だなんて誰も信じませんよ」
「わが宿の初花を大事に愛でるあまり、いつ盗みだされやしないかと、
こんなに怯えているというのに」
「ええっ?」
「この白梅の初花の美しいことはどうだろう。昼はまぶしい雪のようで、
夜は月のように輝くと思わないか?」
「お庭の梅、もう咲きましたか? やだ、私まだ見ていないんです」
「君は見られないかもしれないけれど、私はここへ帰ればいつでも愛でることが
できるから、嬉しくてならないよ。行く末長くお守りしたいと願うばかりだね」
触れてなでる手のぬくもりに、ようやく気づいた白梅は、紅梅にと色を変えた。
|