憬文堂
遙の書棚 Fullkissの書棚 いろいろ書庫 憬の書棚 刊行物ご案内 お食事日記ブログ web拍手 メールフォーム


わが宿の梅の初花昼は雪 夜は月かと見えまがふかな
よみ人しらず





「梅がみごとに咲いたって藤姫からお文が来たんです」


「おや、花にかこつけて、また神子殿を呼び寄せようというおつもりだね。

こわいこわい」


「……友雅さん考え過ぎですよ。なんでもない季節のお便りじゃないですか。

私は京にお友達もほとんどいないし、初めてこっちで春を迎えるんですから、

そんな風に言わなくても!」


「怒らないでおくれ。私は臆病ものなのだから」


「友雅さんが臆病だなんて誰も信じませんよ」


「わが宿の初花を大事に愛でるあまり、いつ盗みだされやしないかと、

こんなに怯えているというのに」


「ええっ?」


「この白梅の初花の美しいことはどうだろう。昼はまぶしい雪のようで、

夜は月のように輝くと思わないか?」


「お庭の梅、もう咲きましたか? やだ、私まだ見ていないんです」


「君は見られないかもしれないけれど、私はここへ帰ればいつでも愛でることが

できるから、嬉しくてならないよ。行く末長くお守りしたいと願うばかりだね」


 触れてなでる手のぬくもりに、ようやく気づいた白梅は、紅梅にと色を変えた。






遙の書棚 Fullkissの書棚 いろいろ書庫 憬の書棚 刊行物ご案内 お食事日記ブログ web拍手 メールフォーム
憬文堂