龍神の神子の役目を終えてから、あかねはめったに外出を許されない京の
暮らしに甘んじていたので、久しぶりの外の空気は、どんなに冷たくても
心地よさしか感じないのだろう。
「うわー! 野原に来るなんて久しぶり! 気持ちいーい!」
放っておけば駆け出しさえしそうなあかねに、友雅は苦笑する。
「頼むから、私の目の届く範囲でお願いするよ。そのまま天へと駆け上って
しまわれてはかなわない」
「そんなわけありませんよ。大丈夫。このへんで探しますから」
「この寒空に、まさか自ら若菜摘みをお望みだとはねえ……」
正直なところ若菜摘みは口実で、あかねがずっと外を歩きたくて
たまらずにいたことを友雅は知っている。
「友雅さん、どれが食べられる草ですか? うーん、泰明さんに見分け方を
教えてもらっておけばよかったかなあ」
元八葉の同僚であった陰陽師の名を出されて、友雅はやれやれとため息を
つく。
「何も泰明殿を頼らなくても、あなたのためなら月の桂ですら取ってみせよう
という男がいるのにね。私の月の姫」
「友雅さんのために私が若菜を摘みたいの!」
「では私は君のために若菜を探してみせようか」
大切な人のために何かをする喜びは、かけがえのないものだ。
微笑みあう二人の袖に、ちらちらと春の雪が降りかかる。
「……雪! 友雅さん、ほら見て!」
芽吹いた若菜を摘む手を止めて空を仰ぎ、互いを見つめ合う。
初春の雪は、まるで二人の行く末を祝う花吹雪のようにも見えるのだった。
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