「ゆうべはことのほか冷えたというのに、神子殿はまた庭へ出ていたそうだね」
「……だって友雅さんは、内裏の宿直で来られなかったし……」
「病に倒れでもしたら、どうするの。あれほど御身大事にと約束したろう?」
「ええ、だから寒くないように皮衣まではおってましたから大丈夫ですよ。
それにね、本当にきれいなお月様だったでしょ。友雅さんも見ましたか?
ほっそりきれいな三日月。斜め下の宵の明星も! 私うっとりしちゃって」
「それで文の返事もお出迎えも遅れがちになったということなのかな。
私の方はそのつれなさが堪えて内裏で凍えそうになっていたのに」
「えっ……本当に? ご、ごめんなさい。お仕事中だと思ったから……」
「なるほど、こんなに清げな月の姫までお出ましでは、庭の池など
ひとたまりもないね」
「は?」
「大空には上弦の月、地上には月の姫が輝き冴え渡っていたのだもの。
その影を映していた我が家の池の水が真っ先に凍ったわけだ。
ならば次はその氷を溶かしていただこうか」
「友雅さんってば!」
「冴え冴えとした月も、かき抱けば暖かいと知っているのは私だけだよ」
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