憬文堂
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物思ふと月日のゆくも知らぬまに今年は今日に果てぬとか聞く
藤原敦忠





「友雅さん、もう行かないと」


「神子殿は、よほど私を追い払いたいのだね。これほど

私が君と離れがたくて悩んでいるのに、そんな風にされると、

よからぬたくらみがあるのじゃないかと疑ってしまうよ」


「そんなことありませんって。暮れが忙しいのは、京でも、

私の育ったところでも変わらないでしょう? 

また内裏から催促のお文が来ますよ」


「困ったことに、君を思って過ごしていると月日が経つのも

忘れてしまってね」


「何を言うかと思えば……」


「呆れ顔をしないでおくれ。君に嫌われるのが私は一番恐ろしい」


「見捨てられたら恐ろしいのは私の方だと思うんですけど……」


「ならば共にいるしかないじゃないか。ああ、困ったね。

いっそう離れられなくなってしまう」


「……何するんですかっ!」


「こうしている内に今年が今日で終わってしまうと聞く羽目に

なるようだよ」


「きゃ……ぁ……ん!」


 二人の年の瀬は、こうして暮れていくのであった。






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