龍神の神子だった元宮あかねのもとに、今日も日の暮れぬうちから
左近衛府少将・橘友雅が通ってくる。
「友雅さん早いんですね。もう八葉のお仕事もないし、本当はこんな
に早く来ちゃいけないんじゃないですか?」
「神子殿につまらない入れ知恵をされたのは、どこのどなただろうね」
「私だって、いつまでもこっちの常識知らずでいるつもりないですよ。
こうして京に残って今まで通り藤姫のところでお世話になっているし」
「それは私のためと思っていい?」
「わかってるくせに……友雅さんがいなかったら、私ここにいません」
「ふふ、ありがとう。私もね、君と過ごしたい心がどうにも募って
しまい夜が待ちきれずに、気がつけば早々とこちらに足が向いている
のだよ」
「……私に会いたくて?」
「今宵も日が暮れれば逢えるとは思うのだけれど、それまで待てない
のが恋心というものだね」
「私だって、友雅さんと別れた後は次に会えるまで、とっても待ち
遠しいです」
「気が合うね。真実、恋する者の想いに隔てはないと知って嬉しいよ」
こうして神子の寝間には、今宵も早くから優しい睦言が響くのだった。
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