目覚めると夜半に降った初雪で、京の橘邸の庭もすっかり雪化粧を
ほどこされ、朝日に輝いていた。
寒さをものともせず蔀を上げさせ御簾も巻き上げて、あかねは庭を
ながめた。
「きれい……雪景色を見るのが初めてなわけじゃないのに、こんなに
きれいだと思ったことないかも……」
端近に出てしまったあかねの後を追い、友雅が背後から声をかける。
「ああ、まるで岩にも白い花が咲いたようだ」
あかねが友雅を振り返ると、彼は腕をのばして彼女を抱き込んだ。
「白雪は等しく一切を白く清めてしまう。どれほど穢れた地であろう
と同じようにね。私の庭だけに降ってほしいと願っても無駄だろう?
私の白雪も同じだね」
「友雅さん」
すっぽりと胸に抱き込まれたまま、あかねが彼を見上げると友雅は
微笑んでいた。
「ああ、でも私は、こうしてとけない雪をとどめている果報者だ」
降ってくるやさしい口づけが朝のあいさつ。
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