あまり月が美しいので寝る前にそっと御簾を上げてみた。
「えっ? 友雅さん! なんで、ここにいるんですか?
今晩は内裏でお仕事だって、お文をいただいたのに」
「ああ、その予定だったのだけれど……ね」
「また、さぼりですか」
「そういうわけではないのだよ。あまり、しつこくして
君に嫌われたくはないし」
「……物は言いようですね」
「ここに潜んで恋しい月の姫の気配だけでも感じて夜を
明かそうかと」
「外で宿直のまねごと?」
「頼久と役目を代わろうかと思ってね」
「えーっ、冗談……ですよね」
「困ったねえ。神子殿には、なぜだか上手く伝わらないな。
昼間は耐え忍んでいるけれど、それが長く続くと、つらい
のだよ。恋しさのあまりとても我慢できない時には、山の
頂から月がすっと出てくるように、私もひそかに家を出て、
こうして忍んでいるのさ。君の邪魔にならないようにね」
「もう! 夜更けに、こんなところにいたら身体を壊しますよ」
「では、そちらへ行ってもいいかい?」
「…………友雅さんには負けました」
月明かりを導くように袖をを引き、秋の夜は更け行くのだ。
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