憬文堂
遙の書棚 Fullkissの書棚 いろいろ書庫 憬の書棚 刊行物ご案内 お食事日記ブログ web拍手 メールフォーム


忍ぶれど恋しき時はあしひきの山より月の出でてこそくれ
紀貫之





 あまり月が美しいので寝る前にそっと御簾を上げてみた。


「えっ? 友雅さん! なんで、ここにいるんですか? 

今晩は内裏でお仕事だって、お文をいただいたのに」


「ああ、その予定だったのだけれど……ね」


「また、さぼりですか」


「そういうわけではないのだよ。あまり、しつこくして

君に嫌われたくはないし」


「……物は言いようですね」


「ここに潜んで恋しい月の姫の気配だけでも感じて夜を

明かそうかと」


「外で宿直のまねごと?」


「頼久と役目を代わろうかと思ってね」


「えーっ、冗談……ですよね」


「困ったねえ。神子殿には、なぜだか上手く伝わらないな。

昼間は耐え忍んでいるけれど、それが長く続くと、つらい

のだよ。恋しさのあまりとても我慢できない時には、山の

頂から月がすっと出てくるように、私もひそかに家を出て、

こうして忍んでいるのさ。君の邪魔にならないようにね」


「もう! 夜更けに、こんなところにいたら身体を壊しますよ」


「では、そちらへ行ってもいいかい?」


「…………友雅さんには負けました」


 月明かりを導くように袖をを引き、秋の夜は更け行くのだ。






遙の書棚 Fullkissの書棚 いろいろ書庫 憬の書棚 刊行物ご案内 お食事日記ブログ web拍手 メールフォーム
憬文堂