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風吹けば玉散る萩のした露にはかなく宿る野べの月かな
藤原忠通





 風のひどく強い晩もふたりが寄り添う寝間はことさら優しい。


「すごい風……野分と言うんでしたっけ。きれいに咲いていた

萩が散ってしまうかもしれませんね」


「露にぬれた秋草の風情も捨てがたいが、こうして君といられる

なら、すべて散ってしまっても構わないよ。ああ、でも君を

なぐさめる景色が一晩で失われてはたまらないから、せめてもの

無事を祈ろうか」


「まさか、全部散ってしまわないですよね。きれいなものは、

たくさんあるし、まだこれからの花も……」


「そんなに外が気になるの? 風のように気まぐれな君の心を

ほんの一時でいい、私だけに留めておくことは、できないのかな」


「え? 私は友雅さんのことばっかりなのに……」


「おや、そうだったかな。私など風に吹かれて玉と散る萩の葉に

結んだ夜露のようなものかと思ったよ。せめてその露に一時でも、

この美しき野辺の月をやどしておくれ」


 薄闇の中で、かすかな明かりに揺れる瞳を愛でるように差し

伸べられたぬくもりは、吹きすさぶ恋嵐に揺れ、とめどない雫に

ぬれて散っていった。






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