「ここのところ、続けて神子殿にお供を許されているけれど
自らは強いて招くこともできずに月を待つ身のわびしさよ。
今日はお声をかけていただけるかと待つ身の不安もあってね。
図らずも八葉となったことで私も初めて知ったのだけれど」
「友雅さん、言ってることがよくわからないんですけど……」
「そう? 神子殿は女人であっても、ひとところにとどまる
ことを知らない月の姫だもの。無理はないかな」
「はあ……」
「いっそためしに雨でも降ってみればどうかと思うのだよ」
「どうしてですか?」
「私の前を通り過ぎて月が空を行く。では雨が降れば月の姫は
通り過ぎずに私のもとへ、とどまって下さるかどうか……とね」
「……試してみたいんですか?」
「いいや。今の私は、きっと離れてゆく月を力づくでも我が宿に
引き止めようとするだろう。愚かな男と笑ってくれていい」
「あのね、何度も言いますけど、私は月の姫じゃないですよ。
それと龍神の神子だからっていうのも関係ないです」
「本当に?」
「ええ。友雅さんを好きな、ただのあかねです」
「うれしいことを言ってくださる。では今宵は月影に隠れて
君を我が宿へお招きしよう。私の愛しいあかねをね」
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