「女心と秋の空……ではないけれど、人の心もうつろう長月になったね」
「友雅さん、久しぶりに会えたと思ったら、いきなり何のお話ですか?」
「この庭に咲き乱れる菊花に心ひかれて、数多の横やりにも負けず
こうして御前にたどり着いた私に、相変わらずつれない神子殿だ」
「……すみません、もう少しわかりやく言ってください。お願いします」
「そろそろ、あの朴念仁にあいそをつかして、神子殿のお心も、うつろう
頃かと期待して参ったのにねえ」
「えぇーっ! あり得ませんよ」
「ほんのわずかでも?」
「すぐに変わるくらいの心なら、私、最後の戦いに勝って龍神様に呼ばれた
あの時、迷わず自分の世界に帰っていて、今、この京にいません」
「……まあね。そういう君だから皆がその素晴らしさを噂して止まないのだよ。
すでに思い切ったつもりでいたのに、何処かであなたの話を聞くと、一度は
あきらめた私までもが好きになってしまうじゃないか。……未練だね」
「あの、大丈夫ですか? 友雅さん、なんだか顔色が」
「私を心配してくださるなら、やさしい野辺の白菊と、まどろむひと時を
お許し願おうか」
「あ……お昼寝するなら、何か掛るものを……」
「いいから神子殿は動かずに、そのまま膝を貸しておくれ。……大丈夫、
これは、あなたの大事な人が帰るまでの、かりそめの夢なのだから……ね」
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