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しかりとて月の心もまだしらずおもへばうとき秋のねざめを
藤原定家





「また月を見ていたね。……帰りたい?」


「友雅さん、私は月に住んでた月の姫じゃないですよ」


「せっかく夜が長くなる季節を迎えるというのに、困ったものだねえ」


「からかわないでください! あんまり綺麗なお月さまだから、ながめてた

だけですよ。月は、この京でも、私の育った世界でも、変わらないでしょ。

友雅さんだって見るじゃないですか」


「私は、すっかり私の月から目が離せなくなってしまったよ」


 友雅はあかねを抱きしめて髪をなでる。


「月は空の上ですよ」


「私はこのように月を愛しているけれど、月の心はまだ分からない。

そう思うと秋の寝覚めも憂いものだね」


「月の心なんて私だってわかりません」


「だったら、ふたりで探り合うとしようか」


「え?」


「秋の夜長を一晩中ね」


 艶やかに微笑む友雅に、否とは言えないあかねであった。






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