憬文堂
遙の書棚 Fullkissの書棚 いろいろ書庫 憬の書棚 刊行物ご案内 お食事日記ブログ web拍手 メールフォーム


夜もすがら月を眺めて契り置きしその睦言に闇は晴れにき
源雅定





 秋風渡る夜の釣殿で寄り添う友雅とあかねは、互いを見つめていた。


「これまで、あまり行く末を思いわずらうことはなかったのだけれどね……」


「行く末って、将来のことですか?」


「先のことを考えるのは若い者のすることだよ」


「友雅さんは、いつもわざと自分を年寄りっぽく言う気がするんですけど。

全然、ふけてなんかないのに」


「神子殿にお会いして私も変ったからね」


 友雅は微笑んで、あかねをさらに抱きこんだ。


「なんて美しい月だろう……いつまでも眺めていたいものだ」


「さっきから月なんて見てないじゃないですか」


「見ているよ。西に沈むことのない私の月をね」


「え?」


「ほら、ここに。ね」


 すっと差しのべられる男の手に、少女は震えた。


「ね、じゃないですよ! あっ……」


「自分でも驚いているよ。君とこうしていると、心の内の闇もすっかり

晴れてしまう」


「ここではだめ……ですよ……」


「ではお許しのいただけるところで私だけの月を愛でようか。

いつまでも私だけを照らしていただけるようにね」






遙の書棚 Fullkissの書棚 いろいろ書庫 憬の書棚 刊行物ご案内 お食事日記ブログ web拍手 メールフォーム
憬文堂