参内のあと訪ねてきた友雅と、午後まだ強い日差しを避けた
廂の間で庭を眺めながら語り合う。
「なかなか涼しくなりませんね。ずーっと夏が終わらなかったら
どうしようかと思ってしまうくらい」
「季節というものは“今、この時から秋である”と札を掛け替える
ようなわけにはいかないからねぇ」
「梅が咲いたら春だとか、わかりやすいしるしがあれば、うとい
私でもすぐわかるんですけど、秋が来たって目では見えないから」
その時、巻き上げていない端近の御簾が、強い風にあおられて
大きく揺れ、あかねの側に立てた几帳までもばたばたとはためいた。
「わ、すごい風!」
よく育っている庭草の前栽も風に鳴る。
「神子殿、あまり外へ顔を出しては……」
「ああ、やっぱりもう秋なんですね。風の音でわかります。
目で見なくても、耳をすませば感じることもあるんですね」
「君のそういうところが龍神の神子であった所以かな」
「友雅さん?」
「いや、そうして人の気づかぬことを拾い上げる名人だから、
私のこともわかっていただけたのだと思ってね」
微笑む友雅の髪を、秋風がなでる。
「ああ、すっかり乱れてしまったな」
「大変! しっかり戸を閉めて……奥に行きますか?」
「男の髪など騒ぎ立てるほどのことでもないけれど、
君が梳いてくださるなら、むしろこの風も私の味方だ」
「……友雅さんは何でも味方にしちゃうんだから」
「君をを手にするためならとわかっていただきたいね」
こうして日ごと長くなる秋の夜も共に過ごすふたりだった。
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