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女郎花秋の野風にうちなびき心ひとつを誰によすらむ
藤原時平





 友雅とあかねは久しぶりに連れ立って、洛西の蚕ノ社へ出かけた。


「おみなえしが、こんなに!」


「ああ、いい風だ。秋草がうちなびく様というのも風情あるものだね」


「やっぱり外はいいですね! 秋の花も見たかったんです」


「そう言ってくださると連れ出した甲斐もある。君が京にとどまってくれた

ことが時々信じられなくて困るよ」


「えーっ、今でもですか?」


「私は自分に自信がないからねぇ。女郎花は秋の野風に一斉にうちなびいて

いるけれど、ただひとつ君の心をなびかせるのは……、君が心を寄せている

のは誰だろうかと不安になるよ」


「また、そんなこと言って……友雅さんってば!」


「何を怒るの?」


「そんなの決まってるじゃないですか。私が友雅さんと今、ここにいるのが

何よりの証でしょう? それじゃ駄目ですか?」


「駄目なはずないじゃないか。ただ私は、すっかり欲深になってしまってね」


「困った友雅さん」


「神子殿には私をこんなにした責任を取っていただかなければね」


「……この後に及んで、まだ神子殿って呼ぶ友雅さんが悪いと思います」


「じゃあ、お互いに今宵の床から仕切りなおして改めようか」


 友雅の心の底から楽しげな笑い声も、秋風に乗って、ゆれた。






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