憬文堂
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 Sanctus 

仲秋 憬


Sanctus, sunctus, sanctus, Dominus Deus Sabaoth.
Pleni suit caeli et terra gloria tua. Hosanna in excelsis.
Benedictus qui venit nomine Domini. Hosanna in excelsis.


聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、万群の神なる主。

主の栄光は天地に満つ。天の高きところにホザンナ。

ほむべきかな、主の御名によりて来たる者。天の高きところにホザンナ。








 むぎは、十六の年まで、ツリーやケーキやサンタクロースのプレゼントでコーティング

された、いわゆる「日本のクリスマス」しか縁がなかった。

 男の子とつきあったこともなかったので、恋人と過ごすクリスマスと言うのも知らない。

 恋を夢見る少女として、色々な甘いシチュエーションを思い描くことはあったけれど、

むぎの豊かな想像力をもってしても、こんな未来はちらっと考えてみたことすらなかった。

 恋人とニューヨークの五番街で生活し、異国の地で師走の時を迎えることになるなんて!

 ロックフェラーセンター前の巨大ツリーの点灯式。

 ニューヨークシティバレエ団の『くるみ割り人形』のバレエ公演。

 リンカーンセンターでヘンデルの『メサイア』。

 マンハッタンのイルミネーションは日本の形ばかりの電飾と比べられるものじゃない。

 むぎは毎日、口を開けて溜息まじりに街を歩く。

 人混みでごったがえすサックスフィフスアベニューの、ショーウインドウのクリスマス・

デコレーションも行列に並んで見物した。


 むぎをアメリカへ連れてきた当人である御堂グループの次期総帥である御堂一哉は、仕

事から帰宅して高層ビルの最上階に近いマンションのリビングでくつろぐささやかな時間、

むぎが興奮して話すのを、半ば呆れたようにさえぎった。

「いいかげん慣れろよ。クリスマスの飾り付けなんて、それほど珍しいものでもないだろ

う。それより物騒だから暗くなる前に絶対に家に帰ってろと言ってるのに、わからない奴

だな」

「だって! すごくキレイなんだもん。街中がクリスマスなんだよ! ほんと一哉くんは

感動が薄いんだからっ。フィフスアベニューと57丁目の交差点の上に、おっきな雪の結晶

あるじゃない? 遠くから見ても青白く光っててさ。あれなんか涙が出るほどキレイなの

に! 仕事に行くのに車から降りて歩いてるだけでわくわくしたりしないの?」

「別に」

「も〜っ」

「5番街の雪の結晶は俺が生まれる前からやってる年中行事の飾り付けだぞ。……まぁ、

今年のオーナメントはバカラが寄贈したそうだから、いつもより見た目がいいかもな」

「バカラって?」

「宝石より美しいと言われたクリスタルガラスを知らないのか。うちにもあるだろ。バカ

ラのグラス」

「…………」

 これだから金持ちは。そんな恐ろしいグラスじゃ何も飲めやしない。

 むぎの表情は複雑になる。

「そんなことよりクリスマスは、どうしたいんだ?」

 一哉は真面目な調子でむぎに問う。

「あのさ、日本に帰らなくていいの? 一哉くんは会社とか、お家のパーティ、たくさん

あって忙しいんでしょ?」

「アメリカじゃクリスマスは年に一度のホリデーシーズンだ。どこも仕事は休み。ニュー

ヨーク支社なら、御堂も例外じゃないぜ。日本だとこうはいかない。東京にいたら十二月

から正月まで俺は出ずっぱりで、お前に付き合ってやる暇はないだろう。パートナーとし

て同伴する機会もあるだろうが、日本は基本的に仕事絡みはパートナーなしで動くしな。

お前、日本で年越ししたかったか?」

「あたしは、どこでもいいよ。…………一哉くんといられれば」

 首を横に振ってむぎが答えると、一哉は満足そうに微笑んだ。

「家族のためのクリスマス休暇は確保してる。ここで、お前と過ごすから安心しろよ」

「……家族」

 ぼんやりとむぎが言うと、ソファに座っていた一哉は目の前に立つむぎを抱き寄せて膝

に乗せ、声のトーンを落としてささやいた。

「お前はもう俺の身内だ」

 こういう時の一哉は、かけねなしに世界で一番むぎに甘い。

 普段は以前の家政婦と雇い主だった関係を引きずるように、必要以上に厳しく偉そうで、

むぎを顎でこき使うご主人様の態度なのだが、むぎが本当に手助け必要とする時は、それ

と意識させずに次々と救いの手を差しのべる。

「ロックフェラーセンターの前でスケートするか? あれはお上りさんのお約束だがな。

お前が望むならつきあってやってもいいぜ」

 一哉のあまのじゃくな優しさは、いつだって簡単にむぎの不安を溶かす。

 天国にいる両親の分も、遠く離れて暮らすたった一人の血縁である姉の分も、全部、肩

代わりしようとする一哉に、むぎは胸がいっぱいになる。

 摩天楼に用意された二人暮らしには広すぎるマンションのリビングで、むぎが飾り付け

た小さなツリーも銀の星をいただき、輝く。

「特別じゃなくて普通でいいよ。……ニューヨークの普通。あっ、でも御堂の普通じゃな

くていいからね!」

「普通、か」

 これまで育ってきた環境が遠く隔たっていても、何よりもお互いが一番大事だという思

いは同じだった。

「お前のやることなすこと、とても普通じゃ収まらないだろうに。とんでもない女だな」

「一哉くんこそ!」

 ごつんと額同志をぶつけて、むぎが笑うと、一哉は「バーカ」とつぶやいて、むぎの唇

を唇でふさいだ。





 クリスマス・イブはあくまで前夜祭。プレゼント交換もクリスマスの正餐も25日にする

のが本筋だ。

 けれど日本のクリスマス習慣が染みついているむぎは24日に何もしないではいられない。

 パーティをするなら、やはりイブという印象が強い。なのに一哉は朝寝坊できるからと

夜通しむぎを寝かせてくれなかった。

 おかげでむぎが24日に何とかベッドから抜け出したのは、もう正午近かった。

「ディナーの買い物とか色々準備があったのに! ケーキだって焼くのには、それなりに

時間がかかるんだよ」

「今夜は軽くてかまわないぞ」

「ケーキは?」

「明日でいいから。お前、そうでなくても十二月に入ってからホリデーカードの宛名書き

と、英会話の特訓でまいっていたくせに、この前は夜中に台所で何か作っていたろう」

 一哉はお見通しだ。

 二月の一哉の誕生日には一哉の伴侶として、むぎを正式に公に披露する準備が始まって

いて、アメリカに来る前頃から、いわゆる花嫁修業だか淑女教育だかわからない勉強で、

むぎが少しオーバーワーク気味だったのは事実だ。

「クリスマスだもん。ジンジャークッキーは焼いておきたいじゃない。食べたことない?」

「イギリスにいた子供の頃にならな」

「……一哉くんってお坊ちゃんだよねえ」

「そう生まれついたものは仕方ないだろう。……嫌か」

「まさか」

 むぎが笑うと一哉はふたたびむぎの腕をつかんでベッドに逆戻りさせようとする。

「ここから出られなくしてやってもいいんだぜ」

「だめ! そんなクリスマス普通じゃないでしょ!」

 むぎはぺちんと一哉を軽くはたいて、起き出した。



 伊達に御堂家の家政婦をしていなかったむぎの家政の腕前は確かで、平均的な日本の一

軒家より広いマンハッタンの高級マンションでも使用人を置かず、二人だけで不都合なく

暮らしている。

 結局、むぎが24日に用意した夕食は、ローストチキンにかぼちゃのポタージュスープ、

牡蛎のムニエルにミモザサラダ。ケーキは25日にして、焼りんごにヴァニラアイスを添え

てデザートにした。

「ターキーってあんまりおいしいと思わなかったからチキンにしちゃったよ」

「うまいぜ。ソースがいい」

「ありがとう。やっぱり一緒においしくご飯が食べられないとね」

「お前、そういうのこだわるよな」

「一哉くん達が、かまわな過ぎだったの!」

「そうかもな」

 めずらしく素直に返す一哉を、むぎはいぶかしむ。

「……どうしたの?」

「何が」

「いや、だって……一哉くんが、あたしの言うこと素直に賛成するのって珍しいし」

「お前も言うようになったな」


 いつになくゆっくりと味わったディナーの食後のコーヒーに添えたジンジャークッキー

をつまんで一口で食べ、カップのコーヒーも飲み干して一哉はおもむろに立ち上がった。

「あ、片づけならするよ」

「いいから。……そろそろ着替えて出かけるぞ。外は冷えるから暖かい格好がいい。ミニ

のドレスはやめておけよ。そういう場所じゃないからな」

「今からどこへ?! もう遅いよ。真夜中になっちゃう」

「始まる時間が遅いのは俺のせいじゃないさ」

 一哉は一方的に宣言すると自分も着替えるためにクローゼットに向かう。

 むぎは戸惑いつつも、結局ワードローブから一哉が選んだ白いレースが襟や袖口を飾る

濃紺の古風なスカートたけが膝より下まであるワンピースに、雪を思わせるオフホワイト

の暖かいカシミアのオーバーを着た。

 一哉は仕事に行くのと変わりなくきっちりスーツを着たので、むぎは驚いた。

 いつものようにむぎにネクタイをしめさせる一哉に、我慢できずに尋ねる。

「夕食も済ませたこんな時間におめかししてどこに行くの?」

「……普通のクリスマスをするんだろう?」

「夜中に出かけるのが普通なの?」

「ついてくればわかる」





 ニューヨークで、車も呼ばず、バスにも乗らず、夜歩いて出かけることなんて、めった

にない。田園調布で暮らしていた頃のように、ちょっとコンビニまで夜の散歩に行くなん

てことは不可能だ。

「クリスマス・イルミネーションを見に行くとか?」

「見たいなら寄ってもいいがライトアップしてるあたりは騒がしいぞ」

「違うの??」

 静かな夜の街を歩く。気がつけばちらちらと同じように歩いている人がいる。さすがに

小さい子供は見かけないが、むぎは家族連れが多いような気がした。

「一哉くん」

 腕を組んで歩いていた一哉のコート袖をむぎがひっぱると、一哉が立ち止まった。

「ほらここだ」

 石やコンクリートのビル街のあいだに、ぱっと古い建物が現れると、ニューヨークでは

それは大抵、教会だった。

「もしかして教会に入るの……?」

「クリスマスミサに出る。普通だろ」

「え、でも、勝手に入っていいの……?」

「教会は開かれている場所だからミサに出ようという者を拒まない。お前も祥慶に通って

いたんだから、かまわないさ。俺は一応、洗礼も済ませているし……日曜日に必ず教会に

行くような信徒じゃないけどクリスマスくらいはな」


 御堂家が設立に関わった名門私立の祥慶学園はカトリック系の学校で、校内には礼拝堂

もあり、聖書の授業もある。毎年12月の終業式の後に行われるクリスマス礼拝とコンサ

ートは大きな学園行事であった。


「セントパトリック大聖堂じゃ観光客しかいないし、テレビ中継のミサなんかごめんだ。

ミサは歩いていける教会でいいんだ」

「そっか……」

 むぎが感心していると周囲を歩いていた人達が続々と同じ教会へクリスマスの深夜ミサ

にやってきていた。

「入るぞ」

 臆せず堂々としている一哉に促されて、むぎもおそるおそる教会の中へ足を踏み入れた。



 観光名所になるようなものではなく名前も知らない教会でも、ゆれるろうそくの火に照

らされたチャペルは、クリスマスの特別な飾り付けがほどこされ、清らかで美しい。

 厳かな空気が漂う祭壇の前に並ぶ固い木のベンチに座席指定はあるはずもなく、人々は

思い思いの席に着き、手元に用意された聖書や聖歌のカードをながめたりしながら静かに

時を待っている。


 やがて白い衣を身につけた司祭が入場する。オルガンと聖歌の響きが高い天井にこだま

する。

 もうそれだけでむぎは感動してしまい、大きく目を見開いた。

 実際の所、むぎの英語能力では司祭が何を言っているのかわからなかったが、あたりを

包む敬虔な雰囲気に自然と祈りの気持ちがわき上がるのは不思議だった。

 ふいに、もういない両親の面影が脳裏をよぎり、まぶたを伏せた。

 聞いたことのある聖歌のメロディーでは声を出して歌った。

 司祭が聖書を朗読する。

 そのおだやかな声を聞きながら、むぎは祥慶学園で聞いたことを思い出した。

 知り合う前の年の祥慶のクリスマス礼拝では一哉が聖書朗読をして、それがもう気が遠

くなるほどステキだったとか、そういう話だ。

 隣に座る一哉の横顔をこっそりながめると、視線に気付いた一哉が「どうした?」とい

う表情をする。むぎは「なんでもない」と言うように首を横に振り、また正面の司祭に視

線を戻した。


 いくつかの歌があり、パンとぶどう酒が祭壇に供えられ、祈りを捧げられ、特別な扱い

をされている。それは感謝のしぐさにも見えた。神聖な儀式をただ見守っていると、聖歌

の合唱がふいに明るい響きになって終わった。周囲の人々は立ち上がり、祭壇の司祭の前

へと進んでいく。

「聖体拝領だ」

「な、何するの? あたしも行って、いいの……?」

 立ち上がっていた一哉は、むぎをじっと見下ろして少し考えてから首を振った。

「行く必要はないだろう。本当の信者じゃないしな」

 参列者達は司祭の前でひざまずき、それぞれさっきまで祭壇に供えられていたパンを司

祭の手から受け取って口にしていた。年老いた人の中には直接口に入れてもらっている者

もいた。

「一哉くんは行かないの?」

「行かない」

「どうして? 一哉くんは一応、信者なんでしょ。あたしはいいから行ってくれば?」

「俺にとっての聖体は、もうここで授けられるものじゃないからな」

 そう言うと一哉はむぎに笑顔を見せた。その笑顔が、いつも一哉がむぎにお構いなしで

強引に事を運ぶ時の人の悪い、でもどうしようもなく魅力的な笑顔だったので、むぎは思

わず息をのむ。

 ミサに参列していた人が皆パンを口にし終わると、司祭は祭壇を片付けて、また祈りを

捧げていた。

 会衆に向かい挨拶を交わし、大きく十字を切って祝福する。

「アーメン」




 深夜0時を回った頃にミサは終わり、人々は散会した。

 一哉とむぎも来たときと同じように連れだって深夜の夜道をゆっくりと歩いた。

「どうだ。退屈して眠くなったんじゃないか?」

「そんなコトないよ。クリスマスってキリストの誕生を祝う日なんだもんね。これが本当

だよね」

「今じゃホリデーシーズンってだけで、そこにこだわらなくていい気もするけどな。キリ

スト教だけを取り立てると信教の自由に障るとも言える。宗教の問題はデリケートだ」

「何を言ってるかは、よくわからなかったけど、神様にお祈りする気持ちは一緒かなって

思ったよ」

「……おい、ラテン語の典礼じゃないぞ? 今のニューヨークの教会のミサなんて、どこ

も普通の英語だ。あれくらいヒアリングできないでどうする」

「えー、だって難しいよ。ねえ、一哉くん祥慶で聖書の朗読したことあったんでしょ? 

あんな風にやったの? 何て言ってたかわかった?」

 むぎがたたみかけるように尋ねると、一哉は大げさにため息をついてから口を開いた。


「初めに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は、初めに

神と共にあった。万物は言によって成った。成ったもので言によらず成ったものは何一つ

なかった。言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。光は暗闇の中で輝いてい

る。暗闇は光を理解しなかった……」


 外灯と星の下で暗唱する一哉の顔はまるで聖者のようだった。

「すごーい! 暗記してるの?!」

 むぎが、ぱたぱたと手袋をはめた手で拍手をする。

「聖書は子供の頃から何度も読んでる。朗読も何度もやった。それで忘れるかよ」

 一度読んだだけでも完璧に覚えてしまう一哉に愚問だったかとむぎは舌を出した。

「そっかあ。キリスト教徒でもあったら当然か」

「最も俺はずっと自分を本質的には無神論者だと感じてたんだがな」

「ふうん」

 それは一哉に似つかわしい考えのように思えて、むぎはうなずいた。

「厳密に神や運命を信じているわけじゃないが、出会いというのは自分で作り出したり、

選んだりするものじゃない。向こうから突然やって来るんだ。生まれるところを選べな

いのと一緒」

「うん……」

「あの夏の初めに祥慶の前でお前に会ったのも、声をかけたのもそうだ」

「え?」

 一哉は真剣だった。

「もしお前に出会わなかったらと考えるのは俺でも怖い。だから祈るのもそう悪くないと

思うぜ」

「一哉くん」

「感謝してる……お前と出会えて、こうして今、共にいられることを」

「あたしもだよ。一哉くんに会わなかったら、たぶんお父さんとお母さんのことも、うや

むやのままで、お姉ちゃんと再会できたかどうかだってわかんない。何より今こんなに大

好きな一哉くんを知らないままなんて寂しいよ」

「幸運だな」

「そうだね」

 一哉はくっと喉の奥で笑って自嘲的につぶやく。

「そういう意味では俺にミサの聖体拝領なんて無意味だ。俺は、お前が望むなら神なんて

平気で裏切る。俺が信じるのはお前で、お前が本当に俺のものになるなら、きっと最後に

は何だってしてしまうからな」

「一哉……くん」

 むぎがぎゅっと一哉の腕にすがりつくと、一哉は立ち止まり、歩道の端で、むぎを抱き

しめた。

「クリスマスは、もっと万人のために感謝と慈愛を祈る日であるべきだろうが……」

「一哉くん、優しいよ。普段あたしには意地悪っぽくしてるけど」

「言ったな」

 一哉は両手でむぎの頬をはさみ、深く唇をむさぼってから、猛然とむぎの肩を抱き、歩

き出した。一哉が本気で早歩きをすると、むぎは、ほとんど小走りの状態だ。

「たとえ俺が朝までに三度続けて知らばっくれても、お前は俺を許して、俺のために祈る

んだろう。だからお前は俺のそばにいるべきなんだ」

「はい?」

 転びそうになりながら、むぎは痛いほど強く肩を抱く一哉を見た。

 むぎには一哉が何を言わんとしているのかわからない。

 一哉は時々わざと難しい言い方をしてむぎを困惑させる。



「冷えてきたから早く帰って続きだ」

「続きって何の?」

「鈍い奴だな。俺たちの儀式をするんだ。あったかいお湯で洗礼して聖体拝領。いい考え

だろ」

 一哉が笑う。

「別に特別な支度はいらない。この俺が心をこめて洗礼してやるから、お前は、その身を

よこせよ」

 それはまるで悪魔礼拝に絶対に断らないと知っている天使を誘うかのような態度だった。



 ある日突然やってくる、この想いに名を付けるなら、それは──。



 家族で静かに過ごすはずの聖なる日を、恋に落ちているふたりは、終日ずっと、互いを

確かめながら熱を分け合い、くりかえし求め合って過ごしたのだった。




      


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