憬文堂
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    家    

仲秋 憬





「……むぎは俺がやとった」

「そりゃあね。本当に、その一点についてだけは、どんなに感謝してもしたりないくらい

だよ。一哉」

 依織が静かに微笑む。

「だからと言って、むぎちゃんの全てを一哉が拘束できるわけじゃないだろう」

「別に拘束しているつもりはないが」

「セクハラまがいのマッサージまでさせといて、自覚ないんだ? すごーい」

 瀬伊がちゃかしても、一哉は顔色ひとつ変えない。

「無理強いしてるわけじゃない」

「ふーん。でもさ、見方を変えたらどうなの。彼女は一哉の機嫌を損ねたら、お姉さんを

助けられないってわかっているから、何でもするんじゃないかな」

 一哉は黙りこんだ。

 まんざら全く自覚がないわけでもなさそうだ。してやったりと瀬伊が勢いづく。

「そうだよね。もしむぎちゃんが、その気なら……もうとっくに一哉だけのものになって

なきゃおかしいよ。そうじゃないんだから、彼女の気持ちが一哉にないってことじゃない」

「では聞くが、お前らが、どれだけ学園でくだらない女達にちやほやされようが、誰から

電話がかかってこようが、むぎが気にかけて邪魔したことがあったか」

「聞かれたことならあるよ。それって興味があるからじゃない」

「そんなのは一宮にだけじゃない。俺だって松川さんだって羽倉だって聞かれてる」

 一哉の言うことは事実なので、瀬伊もそれ以上言いつのりはしない。

「いいよ……なら本人に聞こう」

 依織が言った。

「ねぇ、むぎちゃん。どうなの。答えてほしいな……誰が一番なんだい? うん?」

 ことさら優しく尋ねたところで、むぎは返事などできる状態ではない。



 レースのタックがクラシックな前あきのキャミソールのボタンは全部外されて、ただ腕が

通って引っかかっているだけ。

 下着はすでに、どこかへ追いやられ、豊かでやわらかそうな胸は丸見えだ。

 ミニスカートは、はしたなくめくれあがり、ほとんど日焼けをしていない、のびやかな足

の付け根までさらしていた。



 男たちは、自分たちはそのままで、ひたすら少女を乱すことだけに執心していた。

 視線を交わすたびに見つめる瞳が暗く燃え上がる。


「キスは好きだよね。すごく上手になったよ」

 瀬伊はくすくすと笑いながら、むぎのあごをとらえ、ピンク色の舌を引きずり出して深く

からませた。

「むぎ」

 一哉はむぎの背中に自分の胸を押しつけて抱え込み耳元で名を呼んだ。

 それだけでぴくんとはねるどこまでも柔らかい身体を拘束する。

 投げ出されたむぎの白い足を依織がさすると、またぎしりとベッドがきしむ。

 いくら御堂一哉のベッドが大きくて丈夫でも、大の男3人が体重をかければ悲鳴も上げる。

 だが、すでに、祭壇と化している上に彼らの女神が存在する以上、ベッドの寿命は、あき

らめてもらう他ない。

 どうせ一哉は、そんなものに金を惜しみはしない。むしろ、はした金だ。

 金銭で得られないものの方が大事だと、彼らはむぎによって痛いほど思い知らされている。



「あぁ……本当にたまらないね……たとえここに君の心が無いとしても放せないよ」

 熱に浮かされたように行為を繰り返す。

 むぎの身体のあらゆる箇所が濡れていた。


「まぁ、僕たちがこの家を出て行こうとすれば、本気で止めにかかるんだから、まったく愛

がないわけじゃないよね」

「みんなで仲良く暮らすって夢を見たいんだろう。……かわいいね」

 代わる代わる唇を奪う。

 一人が少し長くむさぼり続けると、あとの二人はまた場所を移して。

 どこをどう愛撫しても、敏感に反応を返してくるむぎに男達はのめり込む。


「こんなに感じちゃうんだ……これ以上はつらいかな?」

 瀬伊の声も上ずる。

「やっ……やだ……ぁ……あ……も……もう……っ」

 むぎが苦しそうにあえいでも、子どものように泣き出しても、走り始めてしまったものは

止まらない。

 彼女の身体の中心。雫に濡れた薔薇を、どんなに散らしても、誰一人、気が済まない。

 一哉は自分の胸にむぎの背を預けさせると、背後から汗でぐっしょりと濡れたむぎの前髪

を指で分け、ひとしきり額を撫でてから、そこへ自分の唇を押しあてた。

 舌の鳴る音が何度も部屋に響く。

「馬鹿な奴……お前が悪いんだ……男をあまり見くびるなよ」

「知らないだけなんだよ。ああ、でも……すご……いね、むぎちゃん、君は……んっ」

 依織が前のめりになり、むぎの胸に顔をうずめた。

「……あんたが、そんな風に言うなんてな。松川さん」

「ふふ……なら譲ってくれないか」

「それは御免だ」

 一哉はきっぱりと強く否定し、瀬伊に足の付け根を、依織に胸をまかせていた、むぎの両

手首を後ろからつかんで強引に引き寄せると、まろやかな肩に噛みついた。

「ひああぁっんっ……」

 男達の間に挟まれ思う様なぶられて、小さい悲鳴のような叫びが彼女の口からこぼれる。

 意味をなさない声ばかりが重なっていく。



「ねえ……君が誰の名前を一番に呼んでくれるか、みんな待ってるんだ」

 むぎの長い髪をもてあそびながら歌うように瀬伊が言う。

「お前が選べば、あきらめもつくかもしれない。かまわないから言ってみろ」

 一哉が彼にしては優しくうながしても、むぎは答えずに、うるんだ瞳で首を横にふる。


 結局、最後に選ぶのはむぎで、答えないことが彼女の答え。

 それは彼らにとっての神託だった。

 もはや彼らは誰も彼女無しでは生きられない。


「いけない子だ……でも、いいよ……君が望むなら、ずっとここで夢を見ようか」

 依織がおごそかに宣言する。まるで誓いのように。



 この家で、五人で仲良く暮らす──。


 間違えてはいけない。

 これは、むぎが彼らに見せた幻想だ。彼女がいなければ崩壊する。

 だから、むぎはその責任を負わねばならない。

 彼らを狂わせた、その責を。

 むぎを共有する。独占できないなら、せめて。

 誰にも譲れないし渡せない。

 彼女さえ、いればいいのだ。





「麻生も……混ぜてあげないといけないんだろうね」

「あいつは簡単だ。一度、見せればいい」

「まぁね。このむぎちゃんに抗えたら、いっそ尊敬するよ」

 瀬伊は、そう言って、ついっとむぎの乳首をはじいた。

「や……ぁっ」

「ほんと食べちゃいたい」

 そう言って赤くたちあがった胸の頂きをついばみながら、柔らかい体を撫でさする。

 むぎを自分の膝に抱え上げ、ずっと下からむぎをゆすり続けていた一哉が、大きく腰

を突き上げた。

「ほら、イけよ」

「怖くないよ……さあ……」

 依織がむぎの腕を取り手首の内側を強く吸うと、白い肌に鬱血の跡がつく。

「あ……」

 むぎがうつろな目をして顔を上げたところに、また唇を落として、ささやく。

「離さないから覚悟して」


 からまりあう幾多の腕と足。

 吐息を分け合い、もつれた白い身体を入れ換えて、何度も繰り返しつなぎ合わせる。



 迷い込んだ迷宮。

 帰る場所は、ただひとつ。

 そこに君がいるところ──。 









    終    


裏棚へ


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