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 ラ・プリンスの放課後 
放課後胸騒ぎ






 瀬伊が放課後校内に残っている時は、たいてい周囲を女の子が

取り巻いているので、すぐわかる。


 場所の方は音楽室のピアノの前だったり、カフェテリアだったり、

まぁ色々だが、そこに最近、美術準備室が加わった。


「一宮くん、明日の授業の準備があるから……」


「いいじゃない。もうちょっと。ねえ、むぎちゃん」


「むぎちゃんじゃなくて鈴原先生!」


「誰もいないよ」


「ここ学校だよ? 臨時とはいえ、あたしは美術の先生なんだから!」


「大丈夫だって。僕がこんなところにいるなんて、誰も思わないから。

おかげでのんびりできるしね」


「今はいなくても、学園では、ずっと態度を変えないようにしないと

ダメなの。いつ誰に会うかわからないし、あたしも気を抜くとうっかり

しちゃうし」


「また一哉に怒られた?」


「……そんなコトないけど、ドキドキびくびくしてるの心臓に悪いよ」


「せっかく二人っきりでいる時に、君のこと先生なんて呼びたくないなぁ」


「んもう。どうせなら音楽室とか行けば良くない?」


「音楽室で何するのさ」


「何って……ピアノ弾いたり」


「ピアノが弾きたいなら、さっさと家に帰って好きなだけ弾くよ」


「じゃあ何で居残りしてるの? ここにいたって、つまらないでしょ」


「自分に会いに来てるんだとは思わないわけ?」


「えぇっ! あんまり人が追いかけて来なくて静かで都合がいいから

じゃないの?」


「君のそういうところがね……ほっとするような、がっかりするような、

複雑な気分だよ」


「瀬伊くんは自分勝手に期待し過ぎ」


「あ、瀬伊くんって呼んだ〜」


 はっと口を押さえようとした時には、すでに遅く、むぎの唇は瞬く間に

奪われた。






● フルキス・ショートショートへ 


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