憬文堂
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 ラ・プリンスの放課後 
図書館の達人






「見つからないー。提出期限あさってなのに! 戯曲の『シ』って、

このあたりじゃないのぉ」


「何をあたふた探してるんだ?」


「一哉くん! レポートの調べものなんだけど、本が多すぎて参考に

なりそうなのが見つからないの」


「シェイクスピア? それなら英米文学の棚だろ。分類記号は932だから、

ここじゃなくて、その奥の棚だ」


「え、そうなの?」


「純粋に舞台芸術の専門書や芸談なら770あたりだな。向こうの閲覧席の

すぐ横の書架。だが探しているのは英語の授業のレポートだろ」


「うん……」


「だったら、やはり奥だ。ほら、そっち」


「ありがと。あー、あったあった!」


「リチャード三世とジュリアス・シーザー? 歴史劇か」


「渋いよねー。どうせなら、ロミオとジュリエットとか、ロマンチック

なのがよかったんだけど」


「原書を当たるなら書庫は別だぞ。祥慶の蔵書は御堂が寄贈したものが

多いから、特に戦後の日本におけるカトリック関係の貴重な資料は充実

しているな。それと一緒にヨーロッパの文献が閉架書庫にかなりある。

シェイクスピアもいくらかあったはずだ」


「……一哉くん司書になれるよ」


「一緒にするな」


「そこまで図書の分類に詳しいのに、自分の部屋の本棚の整理ができない

のって、ヘンなの」


「お前な……」


「な、何よっ」


 気がつくと両側は本棚で、窓もない図書館の突き当たりの壁にむぎは

追い込まれている。


 目の前の一哉は妙に楽しそうだ。


「司書じゃないから、これくらいの礼を要求しても、ばちは当たらないな」


「!!!」


「私語は慎む」


 書棚の影で交わすキスで、手にしていた本を落とさせないのも、

達人の技に等しかった。







● フルキス・ショートショートへ 


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