偽教師から本来あるべき生徒として通学できるようになったからには、
高校生活を思う存分楽しみたい。
たとえば放課後帰り道。駅前の本屋をのぞくのもいい。
「あ〜、この雑誌の最新号、欲しかったんだ」
「どうして?」
「依織くんがモデルしてる写真たくさん載ってるの」
「こんなものをながめなくても本物が側にいるのに」
無意識に返事をしていたむぎが、我に返って驚き振り返ると、そこには
モデル本人が立っていた。
「いいい依織くん! なんで……っ」
「予期せぬ親友の欠席で、お姫さまがたった一人で先に帰ってしまった
と聞いたので、追いかけてきたんだよ」
「あたしが本屋にいるって、どうしてわかったの?」
「いつも君のことを考えているから……かな。少し先のドーナツ屋と、
どちらか少し迷ったけれどね。確かサービス・ポイント2倍キャンペーンは
今日で終りだから、本屋の次はそこへ行きたいだろうと推理したのだけれど」
「……当たりです」
「彼氏を置いていくとは、つれないね」
「いや、だって、立ち読みとか、ポイント集めとか、そういうの依織くん…
…だけじゃなくて、そもそも祥慶の生徒には似合わないって言うか」
「似合うとか似合わないとか関係ないよ。一緒に寄り道した方がポイントも
増えるし楽しみも倍以上だと思わないかい?」
「それは、もちろんだけど……いいの?」
「僕が君にお願いしているんだよ。立ち読みはここまで。本物が付き合うよ。ね」
有無を言わせぬ彼の微笑に、むぎの寄り道は、限りなくゴージャスになるのだ。
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