「一哉くんて結構まめだよね」
「結構って何だよ」
「いやー、意外だったなと思って。だって、一哉くんってば性格は
俺様で、いつもあんなに忙しそうなのにメールの返信とか速攻で来る
から、びっくりしたの。お仕事中なんてメールどころじゃないだろう
と思うのにさ」
「そりゃ会議中や手の放せない作業中なら無理だが、基本的には、
いつでも連絡がつくようにしているからな。メールや手紙で返事が
必要なものは、できる限り早く返信する癖もついてる。何事も
スピードが大事だ。ためこんだり後回しにすると、ろくな事がない」
「なるほどねー。……あたし相手も仕事や情報も同じなんだね」
「バーカ。お前と仕事が同じわけないだろ」
一哉はむぎの額をぴんと指ではじいた。
「俺にとってこんなに思い通りにならないのは、お前だけだぜ」
「えーっ、うそっ!」
「鈴原むぎは御堂一哉の思惑なんか飛び越えて、どこへ飛んで行くか
わからないからな。海外出張の時差程度でためらってる場合か。
気にするな」
「…………ありがと」
「そういう気持ちは態度で表せよ」
ふいに抱き寄せられて、むぎのすぐ目の前に一哉の顔があった。
「こんな時は、どうするか覚えてるよな。ん?」
「命令しないでよね」
「雇い主じゃなくて恋人の意向だ。いいぜ。お前ができないなら
俺がする」
息がかかるほどだった唇の距離は、すぐにゼロになった。
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