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 淑女のたしなみ 





「……だめです。先生、読めないのに書けっこありません」


「古典とはいえ日本語だぞ。情けない奴。どうしても無理なら形で丸暗記しろ」


「一哉くんみたいな超人と一緒にしないでよ。これなら英語の方がましだよ」


「ほー。じゃあ次のパーティは英米人が集まる外資系の招待を受けるとするか」


「や、それは……っ、わかりました。努力します!」


「ほら、次のテキストだ」


「あ……あまの……あまのはら……! 天の原ふりさけみれば春日なる三笠の

山に出でし月かもっ!」


「読めたじゃないか。筆文字の草書だからって、頭から無理だと決めてかかる

から読めないんだろ。歌会と言ってもお前に歌を詠めと言う無茶はしないから、

気楽に眺めればいいんだ」


「うん、そうだね。…………よかったよ、覚えてた百人一首で」


「なら次はこれだ」


 一哉に渡された短冊を見てむぎは思いっきり眉をよせ難しい顔になった。


「…………………」


「どうした? 読めるようになったんじゃないのか」


「……すみません……わかりません……」


「あ、悪い。それは俺がさっき書いたアラビア語だった」


「えええええっ! そんなのないよ!」


「アラビア文字と日本語かな文字を見分けられない方が問題だろ。おまえが

降参したから賭は俺の勝ちだ」


「ひきょうじゃない! そんなの、ずるっこ!」


「いい加減観念しろ。今度のパーティは俺の婚約者としてお前を連れて行く。

夜も同室な」


「一哉くんの嘘つき! 詐欺師! バカバカバカーっ!」


「何とでも言え。悔しかったら、早く自力で教養を身につけるんだな」


 一哉の一石二鳥むぎマイフェアレディ計画は始まったばかりだ。







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