「こんなにいい天気なのに、散らかった部屋で仕事なんだ……」
「日本は祭日でも外国は平日だ。時差もある。チャンスは待っててくれないからな。
インターネットのおかげで逃さずに済むのはありがたいぜ」
自室の机上のパソコン前でモニターから目を離さないまま返事をされて、むぎは
ため息をついた。
「うん。一哉くんが忙しいのは高校の時から変わらないし、わかってるけどさ」
御堂一哉は常に多忙かもしれないが、まだ高校生の鈴原むぎの休日は限られている
のだ。
その限られた休日も一哉の専属家政婦で終わると知って、そうそう機嫌の良い顔を
保つのも難しい。
「じゃあ、お昼、サンドイッチでも作っとくね。私は、おつかいに行くから」
「待てよ。俺を置いていくのか」
「だって、一哉くんは、お仕事なんでしょ」
「連休だろう?」
「あたしはね。だから、ゆっくり買い物に行ってきてもいいじゃない」
「買い物なら、ここからネットでもできる」
「直接、ものを見て買いたいの。ネットで買っても今すぐ配達してくれるわけじゃ
ないし」
「まったく不可能でもないぜ」
「だーかーらー!」
「すまない。そうじゃないんだ」
むぎが切れそうになった途端、すぐに謝ってきた一哉を、いぶかしむ。
「……どうしたの?」
「混雑している連休の時にわざわざ人混みで疲れに行っても、かえって休めないだろ」
「そりゃあ、そうかもしれないけど、あたしは……」
「もうすぐ終わるから、そこに座って待ってろ。そしたら俺も休みにする」
「ほんと?」
「せっかくの休日も、一緒でなきゃ意味がない」
うなずくむぎに、満足そうに微笑む一哉。
「部屋から出ない休日もあるさ。楽しむ方法は色々あるってことだ」
夢の休日への期待に目を輝かせていたむぎが、休みの間ずっと一哉のベッドから
動けなくなると気付くまで、あと少し。
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