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  如月の頃  





 松川右京として歌舞伎役者に復帰した依織は今年も舞台で忙しい。

 二月は歌舞伎座で弟の皇と『三人吉三』で共演中だ。


「ちょうど節分の頃の芝居なんだよ」


「へー、そうなんだ。女の子としては2月は節分よりバレンタインだけど。

依織くんはファンからチョコやプレゼントたくさんもらいそうだね」


「それは人気商売だから……。義理と同じだよ。

受け取っても、実際、食べることはないしね」


「そうなの?!」


「ああ。差し入れだって、君からのものしか食べてないだろう? 

頂き物はたいてい楽屋か稽古場で弟子に配ってしまうな」


「そっか……」


「気持ちはありがたいけれど、本当に欲しい人からだけもらえればいい。

それが本音だよ」


「そんなコト、ファンの人やご贔屓にバレたら大変だよ……」


「君が言わなければ大丈夫。僕がこんなに人でなしで我が儘で、

たったひとりしか愛せないことを知っているのは……ね」


「依織くん!」


「秘密を守ってくれるいい子は、一ヵ月後に期待してくれていいよ」


 約束のキスは、むぎが作ってきたチョコレート・ケーキの味がする。

 依織が逃げ道を塞ぐのが得意なことも、きっとむぎしか知らない。






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