「あたし、ハイビスカス咲いてるの見るの初めてかも」
「本場には負けるだろうが、なかなかよく根付いたな」
「トロピカルフルーツとかもさ……普通、輸入ものだよね」
「他では味わえないもの、満足できるそこだけの特別なものが提供される場合、
人は対価を惜しまないからな。資本活動の基本だ」
「……水着持って来いって言われた時は驚いたけど……」
「無ければ無いで、こっちで適当に見繕っても構わなかったんだぜ。それとも、
泳ぎたくなかったか?」
「やー、こんな外国のビーチみたいなすごい所で泳ぎたくないわけないよ」
「ならば文句はないだろう」
「文句はないけどさ…………今、確か冬だったよね……」
「天気予報じゃ今夜から関東も雪が降るらしいな」
「……なんか信じられないね」
「そうか」
「あのさ、一哉くん。温室を見せてやるっていうレベルじゃないよ……ここ……。
いきなり飛行機でハワイかどっかに連れて来られたって感じだよ」
「そっちの方が良かったか? なら次はそうするか」
「ちがーう! 一哉くんのバカバカバカーっ!!!」
御堂グループ次期総帥の彼に不可能はない。冗談がシャレにならないのが怖い。
「お前が驚いて喜べばいいと思ったんだが……怒るなよ」
「サプライズ・デートじゃなくて普通のデートでいいよ。あたし、まだ初心者だし。
こういうのに慣れたら後が怖いよ……」
「馬鹿。そんなことを言うなら手加減無しだ。俺以外のやつと付き合っても物足り
なくなるようにしてやる」
「そうじゃなくって、一緒にいられたら、場所はどこだって、いいんだってば!」
「…………それは同感だぜ。二人でいるなら……な」
貸切りのトロピカルな温室でも、木枯らしの吹く街であっても、キスはできるから。
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