ちらつき始めた雪を気にせずドライブに出かけた。
「雪景色を見るのに海に来るなんてびっくりしちゃった」
「ごめんね。つまらないところへ連れてきてしまったかな」
「ううん! そんなことないよ。驚いただけ。海岸にうっすらつもる雪なんて
初めて見るし! なんて言うか……しんとしてて、静かできれいだね」
「ああ。明るい夏の海とは違う風情があるね」
「……どんなに雪が降っても、海にとけていっちゃう……」
「この世界に君と二人きりだったら、どんなにいいだろうと思うよ」
「え? 依織くんとあたしだけ?」
「そうだよ。僕たちを邪魔する者は何もない。雪の降る音すらしない」
「寂しくない?」
「お姫さまは寂しいのかい?」
「……あたしが寂しいって言ったら、依織くんが寂しくならない?」
「するどいね」
依織が微笑む。
「雪に音がある世界が恋しくなるのは依織くんでしょ。あたし応援するから
頑張って! また歌舞伎の舞台を観に行かせてね」
「襲名公演まで、しばらく会えないから……君の他に何も感じられない所に
来たかったんだよ。俺のわがままをきいてくれてありがとう」
むぎは背中から抱き寄せられ、たっぷりした依織のコートに包み込まれる。
雪がやむまで、二人はそこを動かなかった。
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