麻生とむぎは冬季営業している野外スケートリンクへやってきた。
「あたしスキーはしたことあるけど、スケートは初めて」
「そうか? じゃあ始めは慎重にな。俺だって貸し靴で偉そうなこと言えねぇけどさ。
トリプルアクセルやイナバウアーは無理でも、滑るだけなら、すぐできるって!」
しかし、思いの外むぎはスケートに適性がないらしかった。
「だめぇーすべるーっ! きゃーっ」
「スケートが滑らなくて、どうすんだよ。ほら来いよ」
「いやーん! 中央なんて出られないーっ!」
「いつまで手すりみがきしてたって、らちあかねぇだろ。手貸してみ。
突っ張ってると危ねぇぞ。転ぶなら、いさぎよく尻餅ついとけ」
「……あああっダメっ。麻生くんっ、ダメだってば! いやぁあああああ」
「おかしな声出すなよ。おい、あぶねっ!」
「放さないでっ。いっちゃやだーっ」
「背中から支えてやるだけだって! そんなしがみつかなくても……っ」
「きゃあぁ────っ! 助けて〜っ!」
「うわっ! やめ……っ!!!」
からまり合うように氷に倒れ込む二人。
「あれ……いた……くない……?」
「お前な……氷で頭打ったらヤバイだろ」
「あっ、ごめん! ごめんね! 麻生くん、下敷きにしちゃって。……大丈夫?」
「平気だ。お前軽いし。怪我はねぇよな?」
「うん。麻生くんのおかげだよ。ありがとう」
「取りあえず立とうぜ。ほら…………冷たいんだか熱いんだか、わかんねぇし」
「え? ああんっ、スケートじゃ立てないーっ」
「あ、バカっ! そんなとこ触るな! …………勘弁してくれ……」
行方怪しい接触過多のスケート・デートは続く。
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