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 Kitchen Princess 
with Prince Kazuya






「いつまでも間に合わせのお古のかっぽうぎじゃ何だし、新しいエプロン

買ってやるぜ。洗い替えも必要だろ」


「へっ? 突然どうしたの? かっぽうぎって、この家に来てから初めて

してみたけど、袖まであるから汚れを気にしないで動きやすいし、これで

十分なんだけど」


「お前がいいなら構わないが……。俺が払ってる給与は、エプロンひとつ

買うのに躊躇するような額じゃないはずだからな」


「一哉くんはエプロンの方がいいの? そりゃ、あたしだって、こんなに

広い立派な洋風キッチンで、白いレースのエプロンして、おしゃれにブラ

ンチ・メニュー作ったり……なんて憧れたりもするけどさ」


「まあ、男としてはエプロンなら、は……………」


「なんで黙るの?」


「……いや、何でもない。気にするな」


「ヘンな一哉くん。とにかく憧れは別として、この家で、おさんどんする

なら、エプロンよりかっぽうぎの方がベストだからね」


「どうして?」


「だって5分でコーヒー淹れろとか、夜中にカレーを作ったかと思えば、

突然シフォンケーキ焼かされるわ、ハーブティーや抹茶やココアまで用意

したり、杏仁豆腐にプリンにゼリー、カップ麺のお湯まで要求されてさ。

そうかと思えば、味が濃いの薄いの、肉を焼けばミディアムだレアだ、魚

を出せば、やれ骨が面倒だのなんだのって、どこのワールドワイドなレス

トランかってくらいの注文くるんだもん。優雅にひらひらエプロンドレス

でゆったりお給仕ってわけにはいかないよ」


「……悪かったな」


「別に悪くないって。それがあたしのお仕事でしょ。ありがとね、一哉くん」


「まぁ、何も邪魔な奴らにまでサービスしてやることもないしな」


「何のコト?」


「こっちの話だ。それなら面倒ごとが解決して、いずれしかるべき時が来たら、

お前にふさわしい新品の憧れの品を俺が支給してやるぜ。それまでキリキリ

働くんだな」


「はーい。がんばります!」


 ご主人様が脳裏に描く男のロマンな未来図を、かわいい家政婦さんは

知るよしもないのであった。







● フルキス・ショートショートへ 


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