麻生と一緒にバイクにまたがっていたむぎは、目的地に到着する前に通り
がかった野原に広がる黄色いたんぽぽと白い綿毛に歓声を上げ、ここで弁当
を広げたいと言い出した。
「お前、こーいうの好きだな」
「だって、かわいいじゃない。ピクニックなら、ここでもいいでしょ?」
草むらに足を投げ出し、ご機嫌な彼女にはかなわない。
「まぁな。似合ってるけど」
「うん。あたしもそう思うよ。綺麗な温室より原っぱの方がいい!」
手作りのサンドイッチをほおばり、魔法瓶に入れてきたお茶を飲んだ後、
むぎは、たっぷり迷ってから形良く咲いているたんぽぽを一輪だけ摘んで、
持っていた手帳に挟んだ。
「それ、どうすんだ?」
「押し花にするの」
「へぇ」
「そういえば麻生くん、あたしの告白にOKの返事してくれた時、バラの
花束くれたよね」
「つまんねぇこと覚えてんだな」
「つまんなくないよ! とっても嬉しかったんだもん」
「……なら、いいけどよ」
「あのバラもね、花びらを何枚か押し花にしたんだよ。麻生くんと一緒の
思い出になるでしょ。……ずっとね」
だから、どうしてこう突然たまらない事を言い出すのか。
言ってる本人に誘惑の自覚が欠片もないから困る。
さすがにここで事に及ぶわけにはいかないだろうと麻生もわかっている。
しかし、わかっていても止まれないのが──。
「ほーらっ、綿毛シャワー!!」
ふっと吹きかけられた綿毛を物ともせず奪う唇の甘さに酔う春の日だまり。
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