依織が、どこからか柘榴をもらってきて、ダイニングで片付けをしていたむぎに
渡してくれたのだが、見るのも食べるのも初めてだ。
ひとつ手にして、しげしげと見つめる。
「ざくろジュースって健康にいいんだっけ。めったに売ってないから買ったことも
なかったなー」
「昔から色々と意味のある植物らしいね」
「そうなの?」
「例えばむぎちゃんは、この家の『紅一点』だろう? あれは確か赤い柘榴の花の
ことを歌った漢詩から来たんじゃなかったかな。種子がたくさんある実だから子孫
繁栄とか豊穣のシンボルでもあるね」
「ふうん……あたしが知ってるのだと、人の味がするってやつ? ホラーマンガで
読んだコトある! でも、まさかね」
「本当だったら大変だ」
むぎの言葉に微笑む依織が嬉しくて、むぎは、はじけかけている柘榴をしっかり
割って、小さな紅い実を取り出すと口に入れた。
「あ、おいしい! このぷちぷちが不思議。絶対、血の味じゃないよ」
「なら僕も確かめさせてもらおうかな」
依織が、むぎの手にあった割れた柘榴を取り、直接かじって食べた。
それは普段の洗練された依織よりも粗暴な振舞いなのに、なぜだかひどく扇情的
で、むぎは呆然と見とれてしまった。
「──甘いね」
柘榴を口にして目の前で低くつぶやく依織の声に、はっとするむぎ。
「うん、甘くて、ちょっとすっぱくて……っ」
「君の味とくらべてみようか?」
いつのまにか奪われて。
望むだけ紅い実を食べようとする依織に、むぎは抵抗できやしないのだった。
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