「ほら、みやげだ」
海外出張から帰った一哉から、むぎの手のひらに乗せられた鮮やかな卵。
「何? これ?」
「イースターエッグ。祥慶学園でも復活祭の行事で作ったろ」
「ああ! でもあれはゆで卵とか中身抜いた殻に模様をつけてたから……
これは違うよね。チョコの卵? 軽いけど」
「さあな」
きらきらした薄紙を丁寧にはがすと、もっときれいな細かいアラベスク
模様とキラキラした宝石らしき石が散りばめられた金色の卵が現れた。
「ちょっと! まさかホントに金の卵?」
「別にロマノフ王朝のインペリアル・イースターエッグってわけじゃないぜ」
「こんな凄そうなの、おみやげで気軽にもらえないよ!」
「騒ぐなって。イースターのうさちゃんとやらが持ってきたんだ」
「うさちゃん?」
一哉らしくない物言いに、むぎは混乱している。
「……母さんが娘にあげたかったんだと。パリで付き合わされた。本当は
自分で渡したがってたぜ」
「一哉くんのお母さんが? どうして……」
よく見ると、宝石の卵はふたつに割れるようになっている。
むぎがおそるおそる卵を開けると中から銀のうさぎが現れた。
「かわいー! かわいいっ! すごくきれい!」
目を丸くして喜ぶむぎを前にして、一哉は満足そうな表情を見せた。
「幸運を連れてくるって言ってたぜ。だからお前が持ってろよ」
「え、でも……」
「聞こえなかったか? 息子じゃなくて、娘にあげるものだって言ってる
んだからもらっておけ。それでも気になるなら、お前もはやく娘を作って、
譲ってやればいいだろ」
「は?」
「にぶい奴…………わかった。これから実地で作ろう」
「えっ、ちょっと一哉くんっ!!」
卵に秘められた願いを一哉は知っている。
新しい命を育む季節がやってきたのだ。
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