AM "Pylon"

2006-05-01

やってしまいました。
New Series AM Speed "Pylon"、お買い上げです。

Pylon の存在は、小径自転車に興味を持ち始めた頃から知ってはいましたし憧れてもいましたが、同時に庶民が買える物ではないとも思っていました。 寺田商会さんで APB を購入して何度か(何度も (^^;)遊びに行くようになって、お客さんが乗って来たり納車待ち、或いは試乗会で New Series や Pylon を見る機会はありました。 けど、「日本にも買える人が居るんだ」とか思っていたものです。 ハッキリ言って自分には関係ない世界という認識ですね。

それが、まさか自分で買う事になろうとは…!

憧れとしてのAM

これまでメインで乗っていたのは APB でした。 Moulton APB Terada original、寺田商会の手によるカスタム車です。 英国パシュレイ社がライセンス生産する廉価版モールトンです。 APB は APB で満足の行く出来1なんですが、同時にライセンス生産ではない「本物の」モールトンに対する憧れを強く抱かせます。

しかし、本家AM は高価なのです。 フレームキットで 61万円(AM-20)、98万円(NSクロモリ)、107万円(NSステンレス)、115万円(NS Pylon)といった価格帯です。 走れる状態にするには、更に 25〜40万円といったところでしょうか。 「自転車」という範疇では理解不可能な価格設定です。 ちなみに APB は 20万円。 安いでしょ?ヾ(^^;)ぉぃぉぃ

しかし AM は高価なだけあり、独特の「いいもの感」があります。 写真ではピンと来なくても、実車を見ると一目惚れする危険性が大です。 スペースフレームと称するトラス構造が非常に美しいのです。 中でも、ステンレスの細いパイプを銀ロウ付けで組んだフレームは非常に美しく、惚れ惚れします。 殊に "Speed" の名を冠する非分割フレームはすっきりとした印象で、非常にカッコいいのです。

スペックも大事ですが、惚れ込んだり、思い入れがあったりするのは、趣味においては重要な要素でしょう。

ただし価格相応かどうかは甚だ疑問でであり、到底オススメできる物ではありません。
欲しい人が勝手に買うのは止めませんけどねー〜。:-P
モールトンとは、そう言う自転車だと思います。

憧れから物欲へ

以上、憧れの要素でした。 これで「欲しいッ」となるわけですが、価格の壁が邪魔してなかなか購入に踏み切れません。 当然ですな。 それを乗り越えた原動力は、Pylon の新車種登場でした。 2004年秋、新型Pylon こと New Series AM Speed "Double Pylon" が発表されたのです。

Double Pylon は現行の Pylon に比べ軽量化・高剛性化が図られ、たぶんサスペンションも改良されています。 価格は未だわかりませんが、一般的には後継・新型(今回の場合 Double Pylon)の方がよい選択肢となるでしょう。 けど、Double Pylon はステンレスではないのです。 フレーム素材は NiCrMo鋼とのことで、仕上げは塗装となります。 ステンレスの方がカッコいいのに!2

2004年11月に Double Pylon の試乗車が日本に来た時に、ちょっと乗らせてもらいました。 実は現行の Pylon も試乗経験があるので、Double Pylon には、より大きな感動を期待していました。 でも…、セッティングその他の影響はあるでしょうけど、なんか乗り心地が硬い? という印象。 少なくとも、期待していたのとは違いました。 期待が大きかっただけに、とても残念な思いをしました。

あと、これは重要なんですが、見かけがイマイチ好きになれません。 どこが…とはハッキリ言えないのですが。 要するに、乗り心地も、見かけも、現行 Pylon の方が断然好みに合っており、Double Pylon じゃダメなのです。

そうこうしている間に、AM Speed S Mk.II のフレームを見る機会がありました。 年間 20本限定3の。

オリジナルの AM Speed S は、絶版話を聞いて購入を決意した人が多い人気車種でした。 案の定、AM Speed S Mk.II も早々に完売してしまいました。 しかもコレ、毎年 20本作るなんて話はどこにも有りません。 単に「1年で20本作るけど、どう?」みたいな話です。 それこそ、今回入手し損ねると次はない!と言う状態。 Mk.II とは言え、入手できた人は幸運と言えるでしょう。

もし Double Pylon が追加ではなく、Pylon の後継車だとしたら。 AM Speed S で起こった事が、Pylon でも起こるかも知れません。 つまり、絶版になり欲しくても入手できない状況です。 別に AM は「現行の Pylon は製造を中止します」なんて言っていません。 もしかすると並売されるのかも知れません。 けど、そうでない可能性もある。 いや、なんかそんな気がするッ!!

とりあえずステンレスフレームの AM を確保しとこうッ!
遂にこの結論に達する時が来ました。 自分としては一大決心です。4

仕様を決める

決心した背景として、「信頼できるショップが見つかった」と言う点も重要です。 APB 購入以後だんだん分かって来た事なんですが、モールトンは平気で歪んでいたり、他の自転車と寸法が違っていたりします。 「○○は△△しなくちゃダメだよ〜」と言う点が少なからずあるようで、安全・快適に乗れるように組むには、相応の知識と経験が必要そうです。

その点、寺田商会さんなら安心できます。 それに、3年近く APB を見てもらっているので、どんな風に自転車に接しているかもお見通しに違いありません。 大枚はたいて買ったのに、なんか違う… と言う事態を回避できる確信があります。 でなければ前述の色々があったとしても購入には至らなかったでしょうね。

…と言う事情で、前金を持ってお店に参上します。
仕様を相談して、それに基づいて色んな所に発注してもらいます。

フレーム

自転車の「大きさ」と言えばホイール径を指す事が多いのですが、本格的な自転車では「フレームサイズ」を言います。 特にロードレーサーではホイールは 700C でほぼ決まりなので、間違いなくフレームサイズになります。 Pylon にも幾つかサイズがある様ですが、寺田さんの見立てで「Sサイズ」としました。 他にどんなサイズが有るのかは分かりませんが、体に合っていなければ話にならないので S以外に興味はないのです。

Pylon フレームには、AMウィッシュボーンステムが標準で付きます。 こちらは「肋骨」の長さの違いで 90mm/140mm がある様で、90mm となりました。 140mm だと、低くすると遠くなってしまいます。 前のめりの姿勢は、ポタリング車としては不向きでしょう。

オプション

自分で荷物を担いで走るのは嫌なので、少なくともデイバッグが付けられる必要はあります。 そこで、純正のステンレス製キャリアを同時発注しました。 必ず使うデイキャリアと、荷物が多い場合に備えてラージキャリアです。 キャリアだけで 10万円です。 バカバカしくてやってられません。

コンポーネント

AM の車輌は、フレームキットのみの販売となっている様です。 Pylon もフレームキットのため、コンポーネントその他の仕様を決めないといけません。 と言うか、その辺りを自由に選択できる様、フレームキットの形態を取っているんだと思いますけど。

まず、シマノ shimano かカンパニョーロ Campagnolo かと言う選択があります。 ここは特にコダワリが無ければ、シマノを選ぶのが普通みたいです。 世界シェアから言うと断然シマノであり、メーカーもシマノに適合する様にフレームを作成します。 部品メーカーの方が、自転車メーカーよりも偉いのです。 まるで OS がハードウェアを仕切っている某業界の様です。

APB でシマノ 105 を使って来て、別にシマノが嫌だとか言う事はありません。 今回もシマノで良いでしょう。 カンパニョーロよりも 10万円くらい安く済みますしね。(←重要)

シマノのラインナップでは、上から Dura-Ace、Ultegra、105 となっています。 APB から1ランク上げて Ultegra でもいいかなと思えます。 が、APB のタイヤは 451サイズだったのが、Pylon では 406サイズとひと回り小さくなります。 その分チェーンリングを大きくする必要があるのですが、大きい歯数5は Dura-Ace にしか無かったりするのです。 そして、ひとつ Dura-Ace に決まると、なしくずし的に他のパーツも Dura-Ace に決まります。

フレームを発注し、並行してパーツを揃えてもらいます。 ですが、パーツも発注すればすぐ入荷すると言う訳ではありません。 特にハブは納期が遅いのだそうです。 ロードレーサーでは完組ホイールが普通になっており、なかなかハブ単体の販売に回らないのだとか。 なので、フレームが入荷したら直ぐに組み立てられるよう、主要コンポーネントだけはフレーム発注時に決めておいて欲しいとの事でした。

ハンドル

ハンドルは、寺田商会オリジナルのドロップバーです。 APB はフラットバーだったので、「次はドロップ」とだけ決めていました。 形やモデルは特定せずにお店に任せたら選んでくれたのがコレでした。

このハンドル、90mm ウィッシュボーンステムに加工なしで取り付けられる特別製なのです。 ハンドルバーはステムが掴む真ん中がやや太くなっているため、真ん中を外して左右で掴むウィッシュボーンステムだと径が合わないんですね。 そこでテラダオリジナルでは、真ん中の太い部分をウィッシュボーンステムの幅に合わせて拡張し、加工なしで付けられるよう工夫してあるのです。

若干幅が狭いのも特徴です。 また普通に取り付けると、最初の曲げから前方へ伸びるバーが水平になります。 更にブレーキの上面が直線で繋がるようになっていて、つまり上側を持つのに都合のいい形状です。 ロードレーサーの、ぐいっと曲げた先端にブレーキが付く構造とは、大きく異なります。

ペダル

三ヶ島の PROMENADE Ezy です。 ワンタッチで取り外し可能な両面フラットペダル。 唯一指名したパーツで、このペダルの選択によってこの自転車の用途を明確にしています。 つまり、輪行を視野に入れたポタリング用途。 この手の自転車ではビンディングペダルが多そうですが、そう言う方面には全く興味なし。(^^;

サドルとバーテープ

サドルは BROOKS Swallow。

寺田さんは「薄べったいのがカッコいいと思う」と、selle ITALIA SLR を勧めてくれました。 135g と軽量なのもよい点。 ですが、試しに跨ってみたらかなり硬く、骨盤が当たっている感じで違和感があります。 そこで革ならどうだと同様に跨ってみます。 Swift や APB で使っている Sanmarco Regal も捨て難いのですが、見た目重視で Swallow としました。

バーテープはサドルとコーディネートする意味から、同じく BROOKS の革テープとしました。 サドル・バーテープともにブラウン。 色合いはかなり違いますが、革は使っている内に色が変わって来ますので誤差の範囲としましょう。

最新のフレームにクラシカルな革パーツを用いることで、落ち着いた雰囲気ながら見た目が重くならない、よい感じになりました。 ペダルの選択と併せ、のんびりムードが出れば成功です。

ホイール

オフセット中空リムが、フレームキットに2本付属します。 AM フレームキットの標準品のようです。 Dynavector のサイトで紹介されてる写真は黒いけど、自分のは銀でした。 色が指定できるのかは分かりません。

タイヤは Continental Grand Prix (20x1 1/8)。 AM上位車種だからって IRC ではありません。 特に指定しなければ、お店側でコレを選ぶようです。 真っ黒なタイヤよりはサイドウォールが茶色い奴の方が好きなのでナイスな選択だったと言えます。 Continental のタイヤは固いと聞きますので、パンク修理時のタイヤの嵌め外しに苦労するかも知れません。

フロントのエンド幅は 70mm(?)と狭いので、AM印の専用ハブがフレームに付属します。 クイックリリースではなくボルト締め、5mmアーレンキーで着脱します。 洗車の時など、ちょっとした時に不便です。 リヤ側のハブは普通なので、上記のように Dura-Ace としました。

スポークはナゼかダブルバテッドが使われていました。 そんな所で軽量化しなくても…という気がしないでもありませんが、これもお店の選択。 不思議なのが編み方で、フロントは普通にラジアル組なのですが、リヤは左側がラジアル組、右側がタンジェント組になっています。 シマノではラジアル組は推奨していないけど敢えて採用したのは、軽量化のためでしょうか。

ホイールを横から見ると、タイヤ(黒)、サイドウォール(茶)、リム(銀)の配色となります。 リムの"中空"部分には段差と仕上げの違いがあり、適度に輪っかが重なっていい感じです。 この様な配色は、私のイメージする「自転車」に符合しますので、けっこう気に入っています。 サドルやリムテープの茶色とタイヤのサイドウォールをコーディネートしている様に見えるのもナイスです(←ただの偶然)。

納車

フレーム発注は 2005年12月中旬でした。 通常だと6ヶ月待ちとなりますが、今回は4ヶ月くらいで日本に入って来ました。 ただし、フレームだけです。 2つのキャリアは音沙汰無し。 2006年4月下旬にフレームが寺田商会に入荷し、1週間くらいで組立ては完了しました。

最後の難関は支払いですが、注文した時点で覚悟は決まっていたので後悔や惜しい気持ちは有りません。 「いざ決戦」の意気込みで支払います(ちなみに 140万円くらい(キャリア別))。 実際には前受金と残金の2分割ですが、どっちにしろ ATM では扱えない額なので、窓口処理となります。 折しも 5月1日、黄金週間の資金を準備する人で銀行は大混雑でした…。 それにしても、帯付きの札束を手にしたのは、いったい何年振りでしょうか。

まずは支払いを済ませ、所有権を獲得します。 その上で、寺田商会名物の安全講習が始まります。 ドロップハンドルは初めてと言う事でブレーキ・変速操作の説明から、ホイールの外し方、乗っている内に自分で調整する方法などをマンツーマンで教わります。 パンク修理などは APB で説明済&経験済なので、省略しましたけど。 また、ステンレスフレームと言う事で、整備方法(磨き)の方法なども教わります。

ていねいに時間を掛けて説明するので、安全講習には時間が掛かります。 なので、納車が集中してしまわない様、お客さんと納車日を調整しているようです。 そうまでしてでも、必ず講習を行います。 それが楽しく乗るために必要だという信念に基づいて。 今回は自分の希望通りに納車して貰いラッキーでした。 黄金週間の直前なので、連休を Pylon に乗って楽しめるわけです。

最初の感想

ドロップハンドルに慣れていないため、自分でも分かるくらいにぎこちない運転になってしまいます。 ハンドルにしがみついてる感じでしょうか。 後に、お店の常連さんから「初めはおっかなびっくり乗っていたけど、だいぶ落ち着いて来た」とコメントを貰っていますので、傍目にも最初はヘタクソだったようです。 1〜2ヶ月もすればすっかり慣れて、思い通りに走れるようになって来ましたけど。 慣れるとドロップハンドルは快適です。

強く感じるのは「軽い!」という事。 河原の土手やちょっとした立体交差なら、トップのまま上れてしまいます。 今までなら、1〜2段はシフトダウンしていたでしょうに。 車重は 10.2kg です。 APB と比べると 2.5kg 程度の減量ですが、別次元の軽さです。 自転車はエンジン(人間)が非力なので、ちょっとした軽量化がてきめんに効きますね。

革サドルは、初めの内は形がお尻に合わず、滑ったりもして、かなり乗りにくく感じました。 が、1000km も走る頃にはかなり落ち着いて、明らかに自分のお尻に馴染んで形が変わっています。 そうなると素晴らしい座り心地で、100km 以上走っても全く痛くなりません。 革、革 言う人が居るのも納得です。

APB の出番はめっきり減り、ひたすら Pylon で走り回っています。 まだ購入直後の高揚した気分が続いているので、いつもより余計に走ってる感じ。 楽しくて仕方ありません。 出費はかなり痛かったけれど、それ以上に満足感があります。 買い物としては成功だったと思います。

  1. 満足の行く出来
    "吊るし"の APB に乗った事がないので何とも言いかねますが、多分に寺田商会カスタムの影響がありそうです。 ダイナベクターの出荷状態のままで乗っている人、カスタムしないで乗っている人よりも、APB の評価が高いかも知れません。

    なお、APB は 2005年辺りで生産を終了し、後継の TSR に世代交代しました。

  2. Double Pylon は NiCrMo
    その後、2006-06 に開催された Moulton Summit 2006 にて、ステンレス仕様の Double Pylon 試作車が公開されました。 NiCrMo鋼の調達難が発端みたいですが、ともあれ日本人ウケしそうです。 要望の多かった分割機構も搭載しています。 けど、素材の変更やオプションの追加によって、重くなってしまった印象。

    NiCrMo鋼仕様の Double Pylon も追って発売とのこと。

  3. 20本限定
    2005年で 20本限定生産。
    好評だったのか、2006年は 25本限定生産。(^^;

  4. ステンレスフレームの AM を確保
    少々不謹慎ですが、モールトン博士の存命中に本家 AM のモデルを入手したいと思っていました。 これは「博士の手によるモールトン」という意味でもあります。 まだまだ元気そうなので大丈夫という心算でいましたが、AM なら何でもいい訳ではないのは本文にある通りです。 長く憧れていたモノが入手できなくなっては意味がありません。

    「that's Moulton」というムックに、博士が楽しげに Pylon に乗っている写真が掲載されています。 博士も乗ってる。 これは魅力的です。 自分も 85歳の時点で自転車を乗り回せるように在りたい、と思わせます。 別に博士と面識があるわけではない(←当たり前だ)のに不思議です。

  5. 大きい歯数
    フロントの歯数は 56-44T。
    リヤの歯数はワカリマセン。(^^; トップは 14T みたい。

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