[INDEX] 映画の感想 4月分  

 

・・・特撰 ・・・秀逸

クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦 4/27

 今年のクレヨンしんちゃんは、完全に時代劇だ。以前のシリーズにも雲黒斎の野望という作品があったが、毛色はまったく違う。今回は、野原一家が総出で戦国時代に乗り込んだのに、どうひいき目に見ても、主役は井尻又兵衛という強いけど照れ屋の武将なのだ。合戦の様子なんかも、ものすごく丁寧に作られている。この合戦シーンの時代考証は、歴代邦画でもトップクラスらしい。音もすごいので、ぜひ映画館で見て欲しい。さらに、戦国時代のさまざまな階級の人々の暮らしを、驚くべき自然体でさらりと描く熱心さは、もはやトレンディドラマ化した大河ドラマの比ではない。そういう世界を、「保険きかねーぞ」と言いながら、ひろしの運転する自動車が土煙を上げて走ってるんだから、その発想自体は、クレヨンしんちゃんの真骨頂である。

 これまでのクレヨンしんちゃんと根本的に違うのは、先述のとおり、主人公であるはずのしんちゃんが、又兵衛にくっつく脇役的存在で、物語の進展に占める割合がこれまでより小さい点だ。今回のしんちゃんは、ねたを振って笑いを取る行動と、直球勝負で又兵衛に恋を説く行動の両極端であるように思う。ギャグアニメと正統派時代劇を両立させるため、しんちゃんがそういう行動に専念していたことがよくわかる。

 正直な感想、この作品は短すぎる。もっと、もっと、あの時代を駆け回る人々の姿を見たかった。殿様にも、もっと登場して欲しかったし、ひろしやみさえの滞在シーンも見たかった。しんちゃん、又兵衛、廉姫には、うんと語って欲しかった。しかし、子供映画には時間的な限界もある。結果、作品の中に、賞賛の意味で、たいへん未練が残った。切ない。だが、その気持ちは、戦国時代の日本人の無常観のようなものの転化であるようにも思えてくる。潔く、行動的で、義に厚く、刹那的ないまを命がけで生きる彼らが、そのまま映画になったような清々しさに変化するのだ。やはり、この作品は時代劇なのだ。子供たちには、ちょっと消化不良かもしれないけど、ときに笑い、ときに涙するという完全な娯楽のひとときに、同時に子供の視点でも無常観を会得できるなんて、ほかでは、なかなかできないよ。あとからあとから映画のシーンを思い出してため息をついてしまう。特撰

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メメント 4/11

 これはね、構成が巧み。最初に、人を殺した直後のシーンから始まって、なぜ、その人を殺すに至ったかを、時間をさかのぼって追ってゆく。ところが、主人公の男は、昔のことは覚えているんだけど、きのうのことや、ついさっきのできごとなど、短期間の記憶が次から次へと消えてしまう。彼は、それをメモや刺青で補う。パソコンで言うと、メモリはあるけど、ハードディスクが壊れて新規の書き込みができない状態か。テレビを見ても、番組の最初のほうから順番に忘れていってしまうので、好きなのは短いCMだけ。

 そんな彼の目的は、妻殺しの復讐。彼の記憶障害も、妻が被害に遭ったときから始まっている。しかし、観客にわかるのはそこまで。あとは、彼のメモリ容量順に、少しずつ、過去にさかのぼって顛末の経緯を解いてゆくほかない。つまり、ストーリーの全容を知らない我々も、記憶障害の彼と同じように、メモや刺青だけを頼りに全体像をつかむ苦労を味わえるという仕掛けだ。メモに、この男を殺せ、と書いてある。この女に会え、と書いてある。だから男を殺す。女に会う。そういう行動を、もし時系列に追っていったのなら、我々は彼の馬鹿さ加減に腹を立ててしまうだろうが、そうではないところが、この映画のすごいところ。

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ビューティフル・マインド 4/-8

 アカデミーの作品賞受賞作品。公開よりもアカデミー賞の発表のほうが先だと、どれほどすごい映画なのか知らん、と身構えてしまう。

 実話に基づいた映画という。作品中に出てくる数学用語は、経済学なんかで聞いたことがあるような気がする。中身は覚えてないけど。その画期的な理論を生み出した天才数学者の半生を追う物語である。同時に、周囲から狂人と言われた人間の素顔に迫るドラマでもある。彼は軍の極秘任務をこなしているうち、そんな任務はでっち上げ、精神病だと断言されてしまう。国家による陰謀なのか、本当に彼は精神を病んでいるのか、真実はなかなかわからない。

 と、そういうところは面白い映画なのだが、基本は明快なサクセス・ストーリー。映画の王道を行く感じ。あと、彼が膨大な文字列を前に、数字をひらめかせてゆくシーンが、古典的な表現ながら快感である。

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