[INDEX] 映画の感想 11月分  

今日から始まる

スポット

キャッツ・アンド・ドッグス

エボリューション

ソードフィッシュ


印・・・秀逸

今日から始まる 11/25(岩波ホール)

 岩波ホールでやっている非常に陰鬱な作品。フランスの廃れた炭鉱町の幼稚園主が、貧しさをものともせず、さまざまな問題に立ち向かう。社会派というか、なんというか。世知辛さを嫌というほど見せつけられた。

 もう、作品全体が陰鬱ムードでいっぱい。貧しいって、現金がないことと、そうではない貧しさとの二大要素で成り立っているのが、よくわかる。その相関関係も、である。園長先生は、そういう大人の事情に飲み込まれてしまいそうだが、その原因は、愛する子供たちを思うが故のこと。普段はあっさりとにこにこしている先生が、家庭や外部の人間には激昂してしまうところに、先生の苦悩がにじみ出ている。

 それにしても、冒頭から悩んだり困ったりし通しの幼稚園に、よくここまで災難が降りかかるものだ。それを社会の責任にしないで困難を乗り切る園長先生の姿を華々しく描いてしまえば、凡庸なアメリカ映画になってしまうところを、彼は堂々と「社会」に悪態をつき、大した起死回生策もひねり出せない。彼は文句なしの100%の力で生きている。しかし、決して120%ではない。120%の力なんて、出すほうが嘘なのだ。結局、できることからやっていくしかないんだ、といった枯淡の境地に達してしまう。感動するべきなのか、よくわからない。そういえば、邦題は『今日から始まる』だ。全力で生きることが、幸せに直結するわけではない。あきらめにも似た妙な達観と、自分にできることの矮小さのアンバランスという現実を、嫌というほど味わえる作品だった。子供たちのあどけない笑顔が唯一の救い。幼稚園の先生たちも、それは同じに違いない。神田神保町は遠いが、帰路の足取りは重かった。

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スポット 11/16

 マイナーな映画なので解説から。美人シングルマザーに想いを寄せるお気楽郵便屋のゴードンは、ひょんなことから、彼女の子供、ジェイムズ君を預かることになってしまった。そこに、マフィアに狙われたFBI捜査犬が紛れ込む。犬をダシにジェイムズを手なずけ、ジェイムズをダシに彼女の気を引こうとするゴードンだが、彼は大の犬嫌いだった。

 子供向けのコメディだが、よかった。主役の子供がすごくかわいい。半端に生意気で、かわいい盛りだね。この映画に出てくる犬は、しゃべらないしブチャイクだ。ゴードンもバカっぽいけど、ときどきカッコいい。あれこれ詮索せずに、物語を額面どおり楽しめばいいのだ。犬映画としては、キャッツ・アンド・ドッグスを上回ると思う。字幕がでかくて難しい漢字がない。

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キャッツ・アンド・ドッグス 11/-9

 人間の忠臣たらんとする犬族と、世界征服をたくらむ猫族とのハイテク戦を描く。その壮絶な戦いに、人間は、ただただ呆然とするほかない。犬や猫がしゃべるときの口の形が、ちゃんと会話どおりなので、字幕版のほうがいい。犬族のエージェントにあこがれる子犬がかわいかった。

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エボリューション 11/-9

 アリゾナの田舎町に落下した隕石には、猛烈な進化を遂げる地球外生物が付着していた。その恐るべき進化のスピードに、人間は、ただただ呆然とするほかない。が、それに立ち向かう者たちがいた。軍の一派と第一発見者グループである。この二者の対立の中、こそこそと活動する第一発見者の仲間たちが面白かった。

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ソードフィッシュ 11/-8

 トラボルタの映画論を聞かされた後、いきなり銀行強盗のシーンで映画は幕を開ける。髪を後ろにすき流してサングラスをかけたトラボルタは、ミスター・マリック(岐阜市出身)のようだ。不敵な笑みを浮かべて部下を扱うトラボルタの悪役ぶりが光る作品である。

 彼は、政府が保有している秘密のお金を、ハッカーを雇って銀行のコンピュータに侵入し、せしめようという魂胆なのだ。しかし、詳細はまったく不明。連れ去られるように彼に従った、さしもの大物ハッカーも、だんだんと不信感を募らせる。計画は、紆余曲折を経るが、大筋ではトラボルタの思惑通りに進捗する。まあ、このあたりは誰にでも予想できる展開だろう。しかし、物語が煮詰まってくるにつれ、次第に彼の知恵者ぶりが明らかになってくる。長い長い回想の描写が終わって再び銀行強盗のシーンに戻る頃には、観る者の頭はかなり混乱しているだろう。彼の目的。敵と味方。混乱というより、客観的に映画を観ているはずなのに、トラボルタの手玉に取られてしまっていることに気づくのである。終盤にかけては、これまでの「紆余曲折」が果たして突発的な事態だったのか、それとも仕組まれたことだったのかさえ見極められない。

 彼はそれを、ミスディレクションと言う。見るものと聞くものだけを信じてはいけない。頭のよさそうなハッカーにそういう説教を垂れるトラボルタは、なんとなく滑稽でさえあるのだが、結局のところ、みんなだまされているようである。作品を通して、超魔術なのである。実際に、1回見ただけで100%理解するのは難しいだろう。結末の賛否は、スタッフの内でも分かれているし、僕が気づかなかった伏線も、随所に張り巡らされているに違いない。それでも、僕はいいと思う。だまされたままであっても、それもまた超魔術。きてます、きてます。秀逸。

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