映画の感想 8月分

英雄の条件

フリントストーン2

ホワイトアウト

タクシー2

パーフェクト・ストーム

グラディエーター

風を見た少年

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英雄の条件 8/31
 米国海兵隊、歴戦のつわもの大佐が、中東での大使館襲撃に際し、市民に向けて発砲したのは、部下と国威を守るための行動か、それとも非道な殺人なのか、英雄たる条件とは何なのか?という触れ込みだったのですが、ちょっと様子の違う作品でした。

 大使救出劇は導入部分といった色合いが濃く、あとは、彼が殺人に関して有罪かどうかという論争に終始します。そもそも、同一の行動に関して、軍法会議での審判が有罪なら人非人、無罪なら英雄という方程式が用意されているわけではありませんから、彼は無罪だから英雄だ!とか、有罪だから英雄じゃない!といった結論では、私は満足できませんでした。

 救いだったのは、ベトナム戦争時に大佐が仲間を守るために行なった殺人行為を証言するために喚問されたベトナム人大佐が、「あなたが同じ立場に置かれたら捕虜でも殺すか?」と尋問されたとき、「Yes」と答えたことでしょうか。このあたりに、軍人という限定団体での英雄なら見出せたような気がします。

 さて、主題とばかり思っていた「英雄の条件」については、クライマックスを法廷で迎えた、つまり、有罪・無罪の発表のみなので、まったく触れず。また、陪審(軍法会議の陪審員なんて奇妙だが)がどうして、その判断を下したかについても、明らかにされませんでした。ふつう、ああいった状況下では違った結論が出ると思うのですが。

 とにかく、いい俳優が出演しているのに、まったく不完全燃焼でした。

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フリントストーン2 8/26
 「まさか続編が出るとは・・・」前作を見た人の弁です。

 変な映画でした。楽しみながら制作してるなー、というのが第一の感想です。そのアホらしいノリについていけたら、楽しい映画でしょう。原始時代のラブコメです。

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ホワイトアウト  8/22
 織田祐二主演、久々の邦画の大作です。封切られたところ、たいへんな人気なので、これは観ねば、と思い立って観てきました。

 期待していなかっただけあって前知識がほとんどなく、漫然と鑑賞していたら、途中で意味がわからなくなってしまいました。犯人から脅迫を受けた警察署長が指揮権を喪失しつつも、あれこれ推理をめぐらせたように、私も映画を見ながら悩んでしまいました。うーん、なんで織田祐二は走っとるんや?なんか、辻褄合わんなー、などと。全体的に、テンポが速いというか、かいつまんだ描写が多く、犯行の全容をつかむのが困難なのです。ところが、できの悪い映画なのか知らんと半ばあきらめかけた頃に、事件全体が氷解しました。すべて、仕組まれたことだったんです。

 上述のように、サスペンスも売りですが、やけっぱちの銃撃戦もあり、格闘もあり、踊る大捜査線顔負けの警察組織ネタあり、ちょっとしたロマンスもあり、とても欲張った作品です。ただ、欲張りすぎて、ちょっと散漫な印象も受けます。雪に閉ざされた真っ白な色調が、そう感じさせるのかもしれません。しかし、随所に出てくるダムのメカニカルな映像が、単調な景色に強烈なアクセントをつけています。織田祐二がダムから逃走するシーンなんて、映像というより、考えるだけで背筋が寒くなります。

 あんまり関係がありませんが、ダムといえば、石原裕次郎主演の、「黒部の太陽」を観てみたいです。ホワイトアウトの撮影地、黒部ダムの物語だそうです。 

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タクシー2 8/14
 待ってました、タクシー2。今年の春、公開を知って以来、楽しみにしていた作品なんです。

 その感想は・・・。面白い!久しぶりに痛快な映画を見たという満足感でいっぱいです。今回、リュック・ベッソンは監督ではないのですが、そういった些事(私はそう感じた)を払拭するほど、笑いとスピードにあふれた作品です。

 格式ばった考察をするのもばかばかしい。随所随所に小ネタ大ネタが仕掛けられていて、笑えます。とくに今作品で注目すべきは、日本の防衛庁長官が誘拐されるという筋書き。当然、日本風のネタもいっぱいです。「ニンジャー」といたずらっぽく発声してエンジンを始動させるダニエルは、相当可笑しい。敵も日本人です。千葉ナンバーのランエボで、ボンド・カーよろしくバージョンアップしたプジョーに食い下がります。こんな大規模なチェイスやクラッシュの撮影が公道でできるフランスって、なんて恵まれた国なんでしょう。ネタを全部バラすといけませんので、このあたりでやめておきます。

 前作の可笑しな人間関係は健在です。相変わらず免許取得に苦労するエミリアン刑事、相変わらず待ちぼうけのリリー、しかし、新展開はあるものです。次回作はあるのでしょうか。その際は、ぜひ東京で撮ってほしいものです。浅草の仲見世を爆走したり、跳ね上がった勝鬨橋から空に飛び出るプジョーとか、いかがでしょう。秀逸。

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パーフェクト・ストーム 8/-6
 映像重視と目されながらも、ちゃんと感動する秀作です。ものすごい高波や暴風の映像は、観れば凄さがわかりますので、観てからのお楽しみ。ご覧になったみなさん、凄かったですね。

 さて、港町には独特の趣があります。出漁する男たち、それを待つ女たち、それぞれ漁獲に一喜一憂し、また別離の日々を過ごします。一見、すさんだ哀しい町のようですが、それは自然相手の生業のこと。飾り立てたり、へつらったりする必要がないため、愛想がないのです。

 この映画の主役は、嵐ではなく、漁師という職業だと思いました。世の中、楽な仕事なんてないでしょう。実労働に比べて極端に報酬が良い職業なんて、そうあったもんじゃありません。そういうたくさんの職業の中で、誰しも必要や成り行きや特性や好き嫌いで仕事に就いているわけですが、命を賭ける仕事は、やはり難儀だということを思い知らされる映画です。

 作品中には、あのパーフェクト・ストームの中での航行が、いかに危険であるかを示す挿話が幾つもあります。つまり、彼らの航海が無謀であったことを、映画は公然と指摘しているのです。にもかかわらず、彼ら自身の行動を肯定的に描いているのは、「それが海の男なのだ」という決然たる見方があるからに違いありません。私たちはともすれば、こんな海の男たちの行動を、無知や無鉄砲からくる不可解なものとして片付けてしまいます。しかしこの映画は、彼らの行動を客観的に描画し、なぜ彼らが荒れ狂う海に漕ぎ出したのかを、私たちに指し示してくれました。

 それは、生活のためと、自尊心のためだと思います。収入を得ないと暮らせないという生活上の必要、それに、水揚げなくおめおめと帰港できないという自尊心。命を賭けた危険な操業の見返りは、この両者を同時に満足させることでした。漁師という職業は、彼らの職業観にぴったり一致していたのです。そして、港町はこのことを痛いほど知っていて、ひたすらおとなしく彼らの帰りを待ちわびています。決して都会にはない、単純かつ重厚なサイクルが、港町では何百年も繰り返されてきました。

 命を賭けた男たちが集う町。炭鉱の町、鉄道の町、兵隊の町。そういう町が消え、いまは、港町だけが、気を吐いています。私は、こういう職業にあこがれます。その素質がなく、無理だとわかっているから、簡単にあこがれることができるだけなんですけどね。

 思えば私の父も、商船ながら船員でした。タンカーで中東へ行くときなど、子供心に心配だったものです。鹿島や和歌山で別れを惜しんだ昔の日々が思い起されます。私が悲しまないよう、母はあの手この手で私の関心を逸らそうと努めていました。幸い、父母とも健在です。

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グラディエーター 8/-3
 ローマ帝国を舞台にした壮大な物語。マルクス・アウレリウス帝の亡き後、新帝に裏切られ、妻子を惨殺された将軍マキシマスが、グラディエーター(剣闘士)となって復讐を誓います。

 もっと、メッセージ色の強い作品かと思ったら、そうでもありませんでした。どちらかというと、私小説的な作品です。あくまで男の生きざまがデンと据わっていて、皇帝や施政、激しい戦闘シーンは、それを盛り上げているに過ぎません。かといって、(極端な例ですが)これを現代日本に置き換えてしまえば、不当なリストラを逆恨みした中間管理職の復讐劇になってしまうわけで、やっぱり全盛ローマでなくてはならないのです。

 ローマのイメージが大事です。ローマは法治国家でしたが、二千年も昔の話で、当然、基本的人権もへったくれもありません。見せ物の剣闘なんてひどい・・・などというローマ批評は退屈です。当時は、社会から見た個人の生命なんてこんな価値だったんだと腹をくくっているほうが、男の心を理解しやすい。先帝への忠誠、妻子の仇、募る望郷の念、偉大なるローマの栄光、そういう重責を自ら背負って黙々と剣闘に挑む彼の姿に、現代に生きる私たちの人権概念など入る余地はないですし、その必要もないでしょう。一方、夫から見た妻の価値、父親から見た子の価値は、万世変わることがないのであって、その対比の鮮やかさを描ききるのに、舞台としてのローマが必要なのだと思います。

 存分に映画を楽しんだ上で、私の心に引っかかるのは、コロシアムで次々と勝ち進んでいく彼の動機が、そういう崇高な理念だけだったかどうかです。新帝に対する復讐心しかなかったのでしょうか。正義の心のみが、彼を突き動かしていったのでしょうか。そうではなかったと思います。残念ながら、彼もやはり、だんだんと血に飢えていったように思います。興行師のオッサンも、そう言っていました。もちろん、ラッセル・クロウは微塵もそんな表情は見せません。しかし私見としては、そうであったはずだという、強い思い込みがあります。その気持ちと、自分も早く妻子の後を追いたいという願望が並存すればこそ、彼がグラディエーターたる意義があるのではないでしょうか。

 そこのところ、もう一度確認したいと思います。無論、マキシマスを単なる勧善懲悪の英雄として、額面どおりに映画を楽しんでも、絶賛できる要件は十分満たしています。「妻子に会いに行く」、「妻子が待っている」ってシーンは、感動しますものね。しかし、私のマキシマスへの思い入れとして、「本当は蛮心もあったんでしょ?」とやさしく声をかけてみたい気がします。ちょっと、考えすぎかも知れません。秀逸。

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風を見た少年 8/-2
 またしても、好き好きのある映画を観てしまいました。

 これはアニメーションです。不思議な力を持つ「風の民」アモン少年の物語です。そこはかとなくジブリ映画っぽい作風でした。原作はおなじみC・W・ニコルです。ということで、自然を大切にしよう!といった教育映画かと思っていたら案外そうでもなく、ひとつの娯楽として十分に楽しめました。

 ジブリのような圧倒的な世界観の代わりにあるものは、独特の汎神論的宗教観だと思います。とくに前半部分では、自然に対する畏敬の念が全面に押し出されています。押し出されていると言うより、やや押し付けがましいかもしれません。しゃべる動物も出てきます。もののけ姫を思い出します。後半部分では、軍政を相手に市民革命を起こしてしまいます。空を飛ぶ人、飛行船、捕らわれのヒロイン・・・、ラピュタを思い出してしまいます。

 ああ、どうしてこんなにジブリ作品を想起してしまうのでしょう。ストーリーはまったくのオリジナルなのに。それを意識して鑑賞を始めると、やはり画像や台詞に精彩を欠くのが目に余ります。こういう作風の着眼は、明らかにラピュタやもののけ姫より早いので、まったく同情してしまいます。

 個人的には、みんなに観て欲しい映画なんです。前評判やジブリ比較に動じない子供は、おそらく面白いと感じるに違いありません。しかし、観る観ないの決定権は親にあるんですね。いい映画でも、これは売れないなぁと感じる作品はあるものです。映画産業の難しさを痛感しました。

 なお、美人博士と閣下のやり取り、「君には失望した」というシーン、愛や恐怖から狂ってゆく彼女は、エヴァンゲリオンを思い出します。「失望?(中略)何も、何も、何も・・・」

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