映画の感想 10月分

 

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インビジブル

キッド

パトリオット

U-571

インビジブル 10/16
 都合により、途中までしか見られませんでしたが、一応感想を。

 今回の透明人間は、嫌な野郎です。彼は、仲間と共に透明人間になったり戻ったりする薬を開発した天才なのですが、それをはばかりなく自慢して、まったく鼻持ちなりません。店員は無愛想だがカメラは安い、名古屋のアサヒドーカメラのテレビCMに、「これでカメラが安なかったら、ただの、嫌な店やで・・・」というコピーがありましたが、この科学者から科学を取り上げたら、ただの、嫌な男です。そんな男ですから、根性も曲がっており、おまけにスケベときていますから、救いようがありません。可視人間に戻れぬと知るや否や、迷惑行為に走ります。もう、わがまま放題に育ったぼんぼん小学生のような男で、映画を見ていて、こっちまで嫌な気分になったところで、映写が止まってしまいました。

 しかし、映像技術というか、透明っぷりはよくできていたと思います。『パーフェクトストーム』の高波なんかと異なり、透明人間は私たちの直近環境が舞台なだけに、観客の見る目が厳しくなるにもかかわらず、割と自然に透明な様子を表現していて、よかったと思います。量子転換とかDNA鎖など、よくわからない用語も興味をそそられます。代わりに、研究室のセットが漫画じみていて、ちゃちなのにはがっかりしました。赤だの青だの、あれではメルモちゃんです。それと、彼が飲んだと言っていたコーヒーの行方が気になります。彼の吐瀉物は透明でしたから、消化が進めば透明になるようですが、飲んでいる最中は、コーヒーが嚥下される様子がありありと透けて見えるはずですよね。見てみたかったです。

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キッド 10/12
 私は、自分ではまだまだいい意味で子供っぽいところもあると思っていたのですが、どうやら、それは独り善がりのようでした。

 物語の前半に登場するブルース・ウィリスは、仕事はできるけれども打算的で、嫌な「大人」を絵に描いたような人物です。そこに、8歳当時の自らが現れ、40歳を目前にした自分のダメさ加減にブチブチ文句をたれます。子供らしい理想を裏切られたことを知る幼い自分、惨めな過去は抹消したことにしている大人の自分。この二者が対立するのを、「まったくダメなオッサンや」と、あたかも少年の味方についたつもりで映画を見ている私は、静かなショックを受ける場面に遭遇します。それは、「過去の自分に出会ったことを幸いに、過去を変えれば少年の夢は叶うのではないか」という発想です。私は、中盤から常にそのことを意識して映画を観ていましたが、それこそが、打算的で嫌な大人の典型だったのでした。

 結局、時間を行き来することによって過去を変えてしまうなんて不可能だという結論に達するのですが、それだけではなく、うれしい結末が待っています。作品随所に登場する、赤いセスナ機の謎も解けます。そして、一見嫌な大人にだって、実は自分で気づきさえすれば、純粋無垢な夢を持ちつづけているということに気づくのです。

 この作品で残念なところは、時制がちゃらんぽらんなことです。たとえば、予告編にもあるとおり、大人の彼は過去に時間移動して、少年のケンカに立ち会うのですが、もし立ち会ったのであれば、少年が最初に大人の彼の前に現れたときには、すでに大人の彼には、8歳の頃、よくわからないオジサンが応援してくれたなぁという記憶がなくてはなりません。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、こうした矛盾は宇宙を破滅させる危険行為として、ドクの計らいによって回避されています。このパラドックスから目を逸らせることなく、正面から向かい合って作品の主題にまで仕立て上げた映画の最高峰は『ドラえもん』でしょう。『キッド』でも、もう少しこのあたりをスマートに表現して欲しかったと思います。こういう理屈じみたことを考えることからしてすでに、私は十分に嫌な大人ですね。あー、やだやだ。

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パトリオット 10/10
 うがった見方ですが、アメリカの独立戦争が革命で、日本の明治維新が革命ではないことを如実に感じさせられました。もちろん、映画の創作加減は、よく心得た上での感想です。

 作品は、8月に見た『グラディエーター』を想起させます。題名の表すが如く愛国心、家族との絆、男の生き様が、戦いを舞台に表現されているからです。そうした中で、『パトリオット』にのみ見られる事象に、父子関係があります。メル・ギブソン演じるマーチンの長男ガブリエルが、おそらく絶対的に信頼している父と時に対立しつつも、境遇の変化や悲劇の数々を通じて、だんだんとその父と同じような姿になってゆく様子に、私は自らを投影せざるを得ません。無論、私はガブリエルのように立派な人生を送ってはいませんし、私の父だってマーチンに比せば体たらくで平凡なものです。ただ、比較度量として、割合的に父子関係に大差がないということです。私が妻子を持つような一人前になるかどうかは甚だ疑問ですが、世の父は父に、息子は息子に、妻は妻に、自分のあり方を重ね合わせて映画を鑑賞すれば、さまざまな感想が生まれる秀逸作だと思います。そういう意味で、ガブリエル役のヒース・レジャーの演技は上等なのでしょうね。私より3つ年下です。

 この戦争が市民革命であると断言する所以は、虐げられた市民と、これに反駁する行動という構図が徹底しているからです。明治維新では、市民が武器を持って立ち上がったという構図はないでしょう。この映画では、そういった構図を強調しすぎて、やや押し付けがましい嫌いがあります。『グラディエーター』と違って、現存する国家を舞台とする物語ですから、やむを得ないかも知れません。秀逸。

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U-571 10/-5
 映画館で見るべき映画です。あの広い客室にいて、これほどまでに息苦しさを感じる作品はなかったと思います。暗くて狭い潜水艦の雰囲気が、よく表現されていたと思います。もっとも、私は潜水艦に乗った経験はありませんが。

 なぜか、あんまり戦争映画という感じがしません。プライベートライアンのような衝撃映像がないことと、敵と直接対決するシーンがあんまりないからでしょう。潜水艦の緊張感がテーマのような作品です。その中で、当初は艦長になるには時期尚早とされたタイラーが活躍し、仲間に支えられながら成長してゆくさまが描かれてゆきます。と書くと、ヒューマンドラマのようですが、そういうわけでもなく・・・。やっぱり、潜水艦が主役ですね。潜航中に駆逐艦から爆雷を落とされるときのドキドキ感は一級です。全体を通して、観客まで乗艦している気分にさせられます。主役が潜水艦である以上、ストーリーはやや散漫な印象を拭いきれませんので、家でテレビで見ても、面白さは半減でしょう。映画館で見てドキドキするべき作品です。

 潜水艦作品といえば、何よりもアニメーション『不思議の海のナディア』を思い浮かべてしまいます。『U-571』とナディアには、相通ずる思想があるように思います。ご存知の方はもう少ないかもしれませんが、ナディアが好きな人になら、『U-571』はおすすめです。

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