脇役の目次へ    ホームへもどる
スミに置けない脇役の伝説 第3回

オードリーU世の唇 エレン・グリーン

エレン


エレン・グリーンと言ってもすぐにはわからない方もいるだろう。けれども、 「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(86年)のオードリー役の女優さんと言えば どなたにもピンとくるに違いない。'50年代風のブロンドのヘア、マリリン・モンロー 風の甘い声としぐさ。サディストの彼(スティーブ・マーチン)いつも殴られアザを 作っている彼女の夢はシーモア(リック・モラニス)と庭付きのマッチ箱のような家 に暮らすこと。まさに50年代風の典型的な小さな夢を持っていた。

私がエレン・グリーンを最初に見たのは「グリニッチ・ビレッジの青春」(76年)。 主役のレニー・ベイカーの恋人役である。ハリウッド・スターを目指す若者の一人 でとっても地味な感じの女優だった。それから丁度10年。どうしてもその当時の彼 女とオードリーをやっいる彼女が結びつかなかった。「髪も違う、声も違う、仕草 も違う…」(プレイ・バック・パート2のメロディーでどうぞ)彼女ってまだこんな に若かったっけ。帰りにプログラムを見るまで「これは同姓同名の別人に違いない。」 そう思っていた。

オードリーの役をやった時、彼女はすでに36歳だった。実は「グリニッチ・ビレッ ジの青春」からこの映画まで、出演作品は1本しかない。もっぱら舞台に出ていた ようだ。彼女は映画よりも舞台の方に魅力を感じていたようである。エージェント に「週に35ドルくれたらアナタの2階の部屋をキャバレーに変えてみせるわ。」と 話し、小さな照明を持ち込み歌ったことが、オフ・ブロードウエイ出演のきっかけ だったという。彼女はこの10年間に様々な舞台に出演し、「三文オペラ」ではトニー 賞にノミネートさえされている。そんな数ある舞台の中で「リトル・ショップ・オ フ゛・ホラーズ」がたまたま映画化されたことでスクリーンに復帰したのだ。

このように舞台で培われた演技力のためか、その後に観た映画でも「あれがエレン・ グリーンだったのか」と驚かされることがしばしばある。「トーク・レディオ」(88年) では、主役のデイスクジョッキーの男の派手な生活に付いていけず、離婚したおと なしい女性。かと思うと、「レオン」(94年)では、ブロンドの髪にヒョウ柄のシャ ツ、ミニスカートをはいたセクシーな母親(マチルダの)といった具合だ。特に「 レオン」は最初のほうでゲーリー・オールドマンに殺されるため、出番が少ないこ ともあるが、何度観ても彼女とは思えない。もっとも、よくよく見ると、確かに口 元は「オードリーU世の唇」に間違いないのではあるが…。

そんな風にただでさえ凄い彼女の演技力なのだが、「ステッピング・アウト」(91年) では、さらに味わいさえ加わっている。彼女はライザ・ミネリが先生の小さなダンス 教室の生徒の一人である。生徒はただ一人を除いて(男だから)今までダンスとは縁の なかった主婦たちで、はっきりいって出来が悪い。先生を呆れさせている。

彼女は小さなブティックを女手ひとつで切り盛りしている。ダンス発表会でカンカン 帽を小道具で使うことになり、さっそく彼女の出番がやってきた。「洋服関係なら私 に任せてよ。」ところが、稽古場に荷物が届いてみると、何と中から出てきたのは色 とりどりの帽子たち。ストローハットに毛糸の帽子、ヘルメットにピエロの帽子。こ れでは踊れない。ア然とする一同に「とりあえず練習には何とか使えそうだから我慢 してね。」(ヘルメットでできるか!)ちょっぴりおっちょこちょいだけれど、仲間の 女性の息子が失業していて困っていると、すぐに自分のブティックでアルバイトで使 ったりと、心優しい姉御肌の女性を実に気持ちよく演じていた。

最近では「素晴らしき日」でも、出番は少ないものの、映画の終盤の鍵を握る人物と して実に良い味を出していた。もうじき50歳(西暦2000年)になるが、これからもきっ と私たちをアッと言わせる演技を見せてくれるに違いない。何てったって彼女は「オ ードリーU世」のように変貌し続ける女優なのだから…。

主な出演作品

「グリニッチ・ビレッジの青春」(76)
「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」(86)(VIDEO=ワーナー・ホームビデオ)
「トーク・レディオ」(88)(VIDEO=ポニーキャニオン)
「今夜はトーク・ハード」(90)(VIDEO=ソニー・ピクチャーズ)
「裸の銃を持つ男331/3」(94)(VIDEO=CICビクタービデオ)
「レオン」(94)(VIDEO=CICビクタービデオ)
「素晴らしき日」(96)
脇役の目次へ   ホームへ