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スミに置けない脇役の伝説 第2回

エグゼクティブの憂鬱 ドナルド・モファット

モファット


白い大きな邸宅、プールつきの広い芝生の庭を優雅に一人散歩する男がいる。 彼の名は、ドナルド・モファット。エグゼクティブ、生れながらのエリート。彼ほどこんな言葉の 似あう男はいない。しかし、彼はいつも孤独である。奥さんはいるのかもしれない。 しかし、家族の影はそこにはみえない。彼には温もりといったものが感じられない。 家庭はとっくにどこかに置き去りにしてきてしまっている。彼の真の家族といえば、 散歩のお伴にいつも連れ歩いている真っ黒な狩猟犬だけである。 これが、彼の映画におけるキャラクター・イメージだ。実際、彼は、DOCTOR、弁護士といった役柄が極めて多い。 若かりし頃の出演作品を眺めてみても、「DOCTOR(博士)」といった役が4本もある。

その中の一本「大地震」では、地震研究所の「DOCTOR(博士)」という役で出演している。 大きな地震がおこったあと、地震研究所では被害報告の電話が鳴り続けている。彼はその応対におおわらわに なっている。あるおばあさんからの電話にイライラしたように「わかりました。ただ、M3.1の地震で入れ歯は緩みません。 それは関係ありません。おーい、誰が電話か変わってくれないか。」大地震がすぐにでも起きるという若い研究員の報告に 「新しいセオリーのもとに突っ走るわけにはいかない。警告どおりに地震が起きなかったらどうする。」となかなかの堅物ぶり を見せてくれる。しかし、大地震発生後、あえなく研究所の建物の下敷きになってしまったらしく、途中から姿は消えてしまう。 アーメン。これでは、他の作品もこの程度のものなのだろう。

1982年、彼は「遊星からの物体X」に出演する。舞台は南極。この情況からして、ついに彼も脱皮か。誰もが?そう思ったに違いない。 今度は基地の隊長役。しかし、仲間に「元大尉だけあって、銃の腕だけは確かだな」などと言われ、はっきり言って嫌われている。 お高い人という事か。さらに隊長とは本当に名ばかりで、宇宙モンスターに誰が侵されているかといった情況になった時、真っ先に 疑われてしまう。しかも弁明するならまだしも、あっさりと「疑われた以上、隊長は降りる」と言って仕事を放棄してしまうお粗末さである。 それでも、仲間が次々と悲惨な最期を遂げていく中で、最後の3人になるまで生き延びたのは救いというほかはない。

1990年、「ミュージック・ボックス」に出演。実はここからが彼の本領発揮といったところだ。この後、ジーン・ハックマンの「訴訟」 ハリソン・フォードの「心の旅」と続くのだが、いずれも寸分違わず同じ役なのである。「主人公が勤める企業専門の巨大な弁護士事務所の会長役」 これで何と3本まとめて役柄の説明が出来てしまう。父も弁護士の名門の家庭に育ち、息子にも自分の後を継がせている根っからの上流人。個人の情 がどうこうよりも、自分の経歴や事務所の名に傷がつく事をもっとも嫌う人間。「ミュージック・ボックス」では、息子の元嫁の父親がナチス親衛隊の 生き残りという疑いをかけられ、珍しくも自分の孫を(孫にとってはおじいさんだから)慰めていたが、「大丈夫だよ。そもそもナチスの大虐殺なんて大袈裟に 伝えられているだけなんだから」と、何ともトンチンカンな事を言って大ヒンシュクを買っていた。たまに情を示すとこの程度のこと。何といっても「お坊ちゃん育ち 」なのだ。

彼のお坊ちゃん的人柄、または、融通の利かない堅物的人柄はアメリカ人じゃないことと関係があるかもしれない。彼は、1930年にイギリス、プリマスで生まれた生っ粋の イギリス人なのだ。アンソニー・ホプキンスを世に送り出した名門RADAで演技を学び、ロンドンで10年あまりも舞台に立つ実力派なのである。イギリスはご存知の通り演劇の国。 映画よりも舞台の方が格上のところだ。彼がそんな舞台に見切りをつけ、アメリカへ渡ったのはどういうわけだろうか...。確かに舞台は名声は上がるが、ギャラは少ない。 例え脇役でもアメリカ映画に出ていた方が実入りはいいはずで、そんなこともあったかもしれない。しかし、このように同じような役ばかりでは、もったいないような気もするのだが...。

役柄では、DOCTOR、弁護士とエグゼクティブの道を歩んできたドナルド・モファット氏。「今そこにある危機」では遂にアメリカ大統領にまで昇りつめ、ホワイトハウスに入った彼。 今度は実生活でも、オスカーの授賞式の壇上に登るなど、スポットライトが当たって欲しいものである。

主な出演作品

「電子頭脳人間」('74)
「大地震」('74)
「ポパイ」('80)
「遊星からの物体X」('82)
「ライトスタッフ」('83)
「アラモベイ」('84)
「ミュージック・ボックス」('90)
「訴訟」('91)
「心の旅」('91)
「今そこにある危機」('94)
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