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スミに置けない脇役の伝説 第4回

エリート街道を踏みはずした男

ウィリアム
ウィリアム・アザートン

「ダイ・ハード」「ダイ・ハード2」の無神経なTVレポーター、 ソーンバーグを演ったのがこの人、ウィリアム・アザートンである。
「ダイ・ハード」('88)では、視聴率を自分一人の力で稼ぎ出し、 何とか出世をもくろむ男。そのためには手段を選ばない。 無神経にも孤軍奮闘する刑事マクレーン(ブルース・ウィリス)の留守宅に、 家族のインタビューを取ろうと押しかける。その結果主人公を重大な危機に 陥れてしまう。全くなんというヤツ!
映画のラストで、ブルース・ウィリスに見事に殴り倒されたとき、劇場内で拍手が 沸き上がったのは当然。とはいえ、彼にとって役者冥利に つきる瞬間でもあっただろう。

こんな彼であったが、実はデビュー当時はそれなりに華々しい 活躍をしていたのをご存知だろうか。スピルバーグの「続.激突カージャック」 では堂々、ゴールディー・ホーンと渡り合い、「イナゴの日」ではあの カレン・ブラック(どこへ行っちゃったんだろう)を向こうに回し、 「ヒンデンブルグ」でも準主役級の扱いだった。 まだある。「華麗なるギャツビー」では俳優としてではなく、 歌手としてあの有名な主題曲を歌っているのだ。スゴイ!!
当時のウィリアム・アザートンはなかなかにハンサムで、 スラリとした20代の好青年。育ちの良さやインテリジェントの香りさえ漂う 将来有望な若手俳優といった雰囲気さえ感じられたものである。 とはいえ、人気がイマひとつ出ないのには、それなりのわけがあった。 「ハートがない」のである。顔のどこかに冷ややかさが見え隠れしているのだ。 これでは女性のハートまではつかめない。

30代になり、若さが失われるにつれ、そういった傾向がますます顕著になっていったように思われる。 そこから彼の脇役人生は始まるのだ。
「ミスター・グッドバーを探して」('77)は、ちょうど彼が30歳の 時の作品である。彼はここで、どんなに侮辱を受けても結婚を諦めきれずダイアン・キートン を追いかけまわす男の役を演じていた。(クレジットはトム・ベレンジャー、リチャード・ギアよりも上である) しかし、情熱的というよりは、偏執的な感じがしてしまったのはなぜだろう。 彼女の父親まえではろくすっぽ付き合ってもいないのに、 結婚寸前のようなそぶりを見せ、良き息子を演じ「いまどきあんな好青年はいない」 と言わせしめてしまう。そのため「家族のふりはしないで!」とキートンを怒らせてしまった。 ウィリアム・アザートンがこのような役を演ると、まさに偽善の臭いがプンプンしてしまうのだ。 したがって、情熱から結婚を望んでいるというよりは、ただの偏執的な 人間像に成り下がってしまったのだろう。

「ミスター・グッドバーを探して」では市の職員だったアザートン君。 「ゴースト・バスターズ」('84)では、出世をして環境庁の役人になっている。 「ミスター・グッドバー」から7年。貫禄もつき、傲慢な態度も身につけてきたようだ。 世間に認知されつつあったゴースト・バスターズの事務所を訪れ、 イチャモンをつける。「有害物質がここにはある。スイッチを切れ」 「ダンナ、このゴースト処理装置のスイッチは、切ると間違いなく爆発しますぜ」 「お前の意見なんかいらない。今日はこっちがいたぶる番だ。いいから早く切れ!」 ドカーン!!! 結果、町中にゴーストが溢れ出し、その首領である邪神ゴーザの目を覚まさせる ことになり、町は崩壊の危機に陥ってしまう。 が、役人らしく責任逃れも徹底している。ゴースト・バスターズの面々を指差し、 「こいつらが爆発事故の原因を作った犯人だ!」
このあと、冒頭の「ダイ・ハード」「ダイ・ハード2」へとつながり、 彼は「傲慢で無神経な男をやらせたら、右に出るものはいない」貴重な 脇役の地位を確立していく。

しかし「オスカー」('91)「ペリカン文書」('93)と、なぜか徐々に 出番は減り続けてしまう。特に「ペリカン文書」に至っては、大統領補佐官といった役どころだったが、 出番はワンシーンのみ。セリフも一言だけと、端役並みの扱いになってしまった。 自分より若い首席補佐官コール(トニー・ゴールドウィン)に嫉妬し、 「コールめでしゃばりやがって」と愚痴をこぼし、同僚になぐさめられるのだ。
以前なら、コールこそ彼が演じていた役であっただろう。 事実トニー・ゴールドウィンは、タイプ的には彼とよく似た俳優である。 世代交代であろうか…。何か役柄と彼の俳優としての立場が 妙にダブってしまい、とても寂しいものを感じた。
それ以来、日本に彼の新作は来ていない。まだまだ落ちぶれては欲しくない俳優である。 もしかすると、今ちょうど役柄の変わり目のところに来ているのかもしれない。
今、50歳を超えたところ、今年は久々に彼の出演した「マッド・シティ」がやってくる。 俳優のエリート街道からは脱落してしまったが、彼にはまだ道が残っているはずだ。 「めげずに頑張れ!!!!」

主な出演作品

「続・思い出の夏」('73)
「続・激突カージャック」('86)(CICビクタービデオ)
「イナゴの日」('74)(CIC.ビクタービデオ)
「ヒンデンブルグ」('75)(CICビクタービデオ)
「ミスター・グッドバーを探して」('77)(CICビクタービデオ)
「ゴスト・バスターズ」('88)(ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント)
「ダイ・ハード」('88)(フォックス・ホーム・エンターテインメント)
「ダイ・ハード2」('90)(フォックス・ホーム・エンターテインメント)
「オスカー」('91)(ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテインメント)
「ペリカン文書」('94)(ワーナー・ホーム・ビデオ)
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