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第82回「マグノリア」

監督…ポール・トーマス・アンダーソン 、 脚本…ポール・トーマス・アンダーソン
撮影…ロバート・エルスウィット 、 音楽…ジョン・ブライオン
キャスト…トム・クルーズ、ジュリアン・ムーア、フィリップ・シーモア・ホフマン
ジェイソン・ロバーズ、ウィリアム・H・メイシー、ジョン・C・ライリー

1999年ニューライン・シネマ/上映時間3時間7分

<CASTジャック&ベティ>
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ まったくもって長い映画だったな。途中でくたびれてきちゃった。

B/ 長くて見ごたえのある作品っていうのもあるはよね。『アラビアのロレンス』とか『風と共に去りぬ』とか。その長さも満足感のひとつ かと。

J/ 『1900年』とかも長いけれど、充実感のある映画だった。思うに大河トラマのようなスケールの大きな作品っていうのは、長さが苦に なるどころか、それが満足感を生むようなところがあるんだね。

B/ この映画は、長いけれどひとつひとつの話が小さいから、長さイコール充実感にはつながってこないのよね。小さい話を不必要に引き伸ば して見せているような感じがするのね。

J/ いくつかのオムニバスをバラバラに刻んで、適当に並べただけという感じでね。ひとつのエピソードに興が乗り始めると、パッと場面が 変わって別の話に移行してしまう。そんなのの繰り返しだった。

B/ 形式としては『イントレランス』を意識しているところがあるのね。それぞれの話が段々に盛り上がっていって、テンポも高まって、相乗 効果がうまれるという形。ところがこの映画にはなんか統一感がないわね。『イントレランス』で言えば、「不寛容とはどういうことか」 それぞれの時代の不寛容の精神からうまれる悲劇を扱っているという明確なテーマがあるわよね。

J/ ちょっと話しを整理してみようね。いったいいくつの話が『マグノリア』にあったか。恋人がいない不器用な警官の話。クイズ番組の司会 者の死を間近にして噴出す家族の問題。この娘がドラッグ中毒になっているわけとからんでくる。それでこの娘はさっきの警官とからんで くるね。これでひとまとまりだね。

B/ 人気のクイズ番組のテレビ中継には、さっきの司会者が出演していて、そこに出てくる天才少年と父親の歪んだ関係の話があって、それと かつて天才少年だった中年男の哀れな末路がこれと対になってくる。この中年男は、出来心から盗みに入ってさっきの警官に救われる。 クイズ番組の関係者の物語でひとまとまり。

J/ 病気で、死が迫っている老人とその家族の物語。で、これはカリスマ的人気のSEX教祖トム・クルーズの心の傷の物語と、老人の若い奥 さんの苦悩の物語がからんでくる。実はこの老人は人気クイズ番組のプロデューサーだったという一点で、他の話につながっているのだけ れど、これは事実だけで、実際の話ではからんでこないので、ちょっと苦しい。

B/ 結局7つもしくは8つの場面が交互に進んでいって、話の流れが最後一本になるという構造にしたかったと思うのだけれど、実際はそうは ならずに、大きな柱が二本バラバラになったままになってしまうのね。クイズ司会者の家族の話と、老人の家族の話のね。その辺が、この 映画の欠点なのね。まるで二本の別の映画をいっぺんに観てしまったという居心地の悪さが残ってしまうわよね。

J/ だからせっかくの最後の何かが降ってくるという、アイデアもただ単に、無理やり物語りをひとつにまとめるだけとった小手先の手段に 見えてしまうんだよね。

B/ 映画のテーマとしては「家族の崩壊と再生」ってことなのだなぁというのはわかる。でもやっぱりこれをいうために3時間はねぇ。それぞ れが重い話で、なおかつこんなにたくさん話しがある。

J/ やりたかったことを全部詰め込んじゃったのだろうね。それじゃいい映画はできないやね。この監督ポール・トーマス・アンダーソンは、 前の『ブギー・ナイツ』も結構長かったし、どうもくどくどと語りたがる傾向にあるようだね。ただ『ブギー・ナイツ』のほうは、それで も話のまとまりがあって、まだ良かったけれど、この『マグノリア』に関しては、監督の悪い面がすべて出てしまったような気がする。

B/ 才能はある人とは思うけれど…。例のカメラが人の後ろにピッタリとくっついて移動していく時の緊迫感ある手法などは、とてもいいし、 俳優の使い方もとってもいい。物語の目のつけどころだって悪くはない。将来性のある監督には違いないとは思うわ。

J/ その欠点を克服さえすればね。

B/ 私は最初『マグノリア』というタイトルを見て、これは南部の話かしらと、思ったけれど、舞台はロスなのね。なぜ『マグノリア』なのか しら。

J/ 確かにこの花は、南部の象徴だものね。『風と共に去りぬ』にも出てくるしね。最後に降ってくる意外性のあるものが、南部的という意味 かもしれないね。

B/ それはまたどうして。

J/ アメリカの南部の話って、どこか怖い御伽噺を思わせるものが多いよね。『フライド・グリーン・トマト』の「人をバーベキューにしちゃっ た」ていう話みたいにちょっと気持ちの悪い意外なことが起こるのが南部なんだよね。暗闇の奥になにか呪術的な気味の悪いものがひそん でいるみたいな。カポーティの南部モノなんか読んでも、気味の悪い話とか出てくるよ。

B/ 暑さのせいかもしれないわね。あの感覚っていうのは。

J/ なんかそんな御伽噺的な感覚をこの物語の中に盛り込みたかったのじゃないかな。それが『マグノリア』。想像の域をでないけれどね。

B/ 気味が悪いのだけれど、魅惑的ななにかがあるのね。ああいう南部の話って。でも私は例えそういう趣旨であったとしても、この映画の アレは悪趣味にしか思えなかったけれど。

J/ そうなっちゃうと、この映画もうほとんどダメってことになっちゃうね。アレが受け容れられてなんとか、収拾のつく映画でもあるから。

B/ ごめんなさいね。でもそのことで、この映画がダメということではないのよ。やっぱり物語りを欲張り過ぎたことが最大の失敗。作りよう によっては、とってもいい映画になったかもしれないのに。そういう意味では勿体無い作品よね。

J/ そうだね。ジェイスン・ロバーズをはじめ俳優たちは、とってもいい演技をしてるしね。勿体無いといえば勿体無い映画だったな。

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