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第64回「バッファロー'66」

エネミーポスター 監督…ヴィンセント・ギャロ 、 脚本…ヴィンセント・ギャロ
撮影…ランス・アコード 、 音楽…ヴィンセント・ギャロ
キャスト…ヴィンセント・ギャロ、 クリスティーナ・リッチ
アンジェリカ・ヒューストン、ベン・ギャザラ、 ロザンナ・アークエット
ミッキー・ローク、 ジャン=マイケル・ヴィンセント

1998年キネティック/上映時間1時間53分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ この映画すごい混雑で、3度通ってやっと観れた。それも平日の午前中にだよ。まいった、まいった。でも 3回通った甲斐はあって、とってもいい映画だったけれど。

B/ バッファローっていうのは、ニューヨーク州のはずれ、ナイアガラの滝に近いところにある街なのね。タイ トルのバッファローっていうのは、ここのフットボール・チームの名前から来ているのね。66年、主人公 が生まれた年から優勝していないチームってことからなのね。

J/ なんか横浜ベイスターズみたいだね。昨年やっと優勝したけれど(笑)正確にはこのチーム名はバッファロー・ ビルズ。この街に住む人々は皆ビルズファンだそうだよ。この映画に出てくる主人公の母親みたいな人は、 案外たくさんいるんだろうね。

B/ 出産してたために、大切な優勝の瞬間を見れなかった。それ以来、優勝していないっていうんで、母親はそ のことを恩に着せているの。何かこの男の運命の冴えなさが、そのままこのチームとだぶっていて、だから とっても意味のあるタイトルなのね。

J/ かつては鉄鋼でずいぶんと栄えていた街なのだけれど、すっかりさびれてしまっていて、なんかその辺も チームの元気のなさとだぶってしまっているね。画面に写るものすべてが停滞し、澱んでいるような感じ だね。

B/ 今度の映画の大ヒットは、ひとえにヴィンセント・ギャロ人気によるものだと思うのだけれど、この人はす ごいわよね。バスキアとバンド組んでたり、モデルをしたり、写真家としても活躍したり、役者として何本 か出演したあと、とうとう監督までしちゃった。しかも脚本、音楽までひとりでこなしてる。でも映画は奇 をてらったりすることなく、結構正統派だったりするのね。そこがいいわね。

J/ 冒頭のシーンから、すっかり引き込まれてしまったよ。刑務所から出てきた男が、寒空の中を丸まってベンチ で寝ている。この男、外へ出て行くこともできずに、かといってトイレに行きたくなって、刑務所のトイレを 借りようとしても拒否される。どちらにも行けない中途半端さ。これがこの男のこれまでの人生そのまんま なんだよね。

B/ どうしようもなくなって乗ったバス。このバスの名前がしゃれているのよ。「ブルー・バード号」幸福を呼 ぶと言われている「青い鳥」ね。これを見た瞬間、この映画のことが好きになったの。こんなどうしようも ないヨレヨレの男にもどこかに幸運があるかも。そんな予感を感じさせるバス。この映画の底に流れるもの にちょっと触れたような気がしたのね。

J/ この男の人生は虚栄と嘘で塗り固められているようで、家に電話するときに、政府の仕事をしていて、家に 帰れなかったとか、奥さんを連れてきているなんて大嘘をついてしまう。「奥さんを連れてきなさい」って 言われて、連れて行く約束なんかしちゃったから、さあ大変。たまたま近くにいた女の子、クリスティーナ・ リッチを誘拐してしまう。「おまえ、俺の奥さんの役を演じろ。うまくやったら開放してやる」なんて。

B/ この子、「高級なホテルから電話している」なんて大嘘をついているのが気になって、この電話をずっと聴い ているのね。おかしくてしようがない。このお兄さん何なのだろうって。だからそれほど怖がってないのね。 なんか引きずられるようにして連れていかれてしまう。

J/ でもトイレにいってなくて、イライラしているから、やっぱり怖かったんだよ。
彼はまさに今膀胱破裂の危機にみまわれていててね。必死でトイレを探すのだけれど、駅に行ったら掃除中で入 れなくって、お店に行ったら閉店だと断られ、もうあせりまくっている。こんな経験って誰でもあるよね。 ああ、ここで行けるって思ったら期待を裏切られた時のツラさったらないよ。とってもよくわかる。(笑) それこそ悪夢。 急がなくてもいいのに、せかせかした気分になって、あっちこっちに当たりまくっている。こんな男に誘拐 されたら、それこそ不運だよね。

B/ ちょっと前かがみになりながら、走っていく様子とってもリアルだったわね。(笑)

J/ 女の子を誘拐してひと息ついて、車の外に降りて立ちションをする、あの開放感。わかるなー。でもあの時 彼女は逃げようと思えば逃げられたよね。

B/ 男が立ちションしている時のお尻って女から見ると、とっても無防備で間抜けに見えるのよね。さっきまで 脅かしていた誘拐犯が真っ先にやったのが、この間抜けな行動で、それがとってもかわいらしく見えちゃっ たの。おまけに帰ってきて開口一番「さっきは、おしっこを我慢していてイライラしていたんだ。ごめんよ」 なんて言われたら、この男の人の良さみたいなのを感じてしまって、もう怖さなんてのが消えてしまう。 段々、この男に興味が湧いてくるのね。だから逃げようとしないのよ。

J/ 彼の家族もちよっと変わった人たちなんだよね。さあ、息子のお嫁さんが来た。可愛い子を連れてきたって いうんで、もう大歓迎で、一生懸命優しくしてあげるのだけれど、話しを振っといて途中でテレビのフット ・ボール・ゲームに夢中になって答えをまるで聞いてなかったり、大嘘をついているのがわかりそうなもの なのに、なんら反応を示さずに知らん顔をしていたり。男がアレルギーってことを忘れて、いいお母さん風 に、次々と食べ物を勧めたり、暖かいんだか、自分勝手なんだかさっぱりわからない。アンジェリカ・ヒュ ーストンとベン・ギャザラが嬉しそうに怪演していたね。

B/ 女の子のほうもすっかり、その気になっちゃって、この「家族ゲーム」を楽しんでしまって、なぜかひとり 主人公のこの男だけがとり残されちゃうのよね。

J/ 子供の頃から彼の居場所っていうのは、どこにもなかったんだろうね。家族が思い出話しをする時、嘘をつ いていると、ぱーっと画面に当時のモノクロ写真が出てきて、真実が写し出されて。ちょっと面白い演出だ った。

B/ この男の嘘で塗り固めた人生。それは自分自身に対してもっていう意味もあるのだけれど、これが彼女の存 在によってどんどん剥がされていくのよね。それがこの映画。限りなくマイナスなのだけれど、これはあた かも彼女が『素晴らしき哉、人生!』の天使の役目を負っているような感じになっているのね。

J/ 恋人といってた女性が、偶然目の前に現れて、見栄がバレてしまったり。それから、仲のいい友達がいるの だけれど、どこかでそいつを軽蔑してたりするんだ。自分にはふさわしくないヤツだけれど、仕方なくつきあって やってるんだみたいに思っているわけ。ところが実は他には友達がいないっていうのが真実でさ。他人に見 栄をはるだけじゃなくて、そうやって自分自身をごまかして生きているのがわかる。どちらにもいけない中 途半端な人なんだよ。

B/ 彼の周りには、彼のことを思っているいい友人たちもいるのだけれど、彼はそのことにさえ気づかないでい るのね。幻ばかりを追い求めているの。だから、彼女が次第に思いを寄せ始めているのにさえ、全く気づけ ない。

J/ すべての虚がひっぺがされて、追いこまれるまで気づけないのだね。『素晴らしき哉、人生!』が追い詰め られちゃった人に対して、「こういういいこともあったじゃない」ってやっていったの対して、この映画は 逆に彼に事実を気づかせるために、追い込んで行く。自分を見つめさせ、それを受け入れることによっての み、はじめて立ち直ることができるのだと言わんばかりにね。

B/ だから、年齢が遥かに下のはずの彼女が、まるで母親のように彼を優しく包み込むような形になっていくの。

J/ こんな映画が作れるヴィンセント・ギャロってすごい苦労してるんだろうなって気がするよ。

B/ あの映画の中に出てくる家って、彼自身が実際に子供時代を過ごした家なんだって。だから、この映画、ち ょっと自伝的な部分もあるの。街の空気とか、そこに生きている人間の温度とかも、フィルムに定着してい るのはそんなわけなのね。

J/ なんかこの映画を観ていると、例えどうしようもない奴だって、わかってくれる人が必ずどこかにいて、い つか運勢が好転してくるって気がしてくるね。とっても勇気の湧いてくる映画。これはヴィンセント・ギャ ロの生きざまや、人生観が、フィルムに反映されているからなのだろうな。

B/ この映画、脇役がすごい顔ぶれなの。お母さん役のアンジェリカ・ヒューストンをはじめとして、ベン・ギ ャザラ、ミッキー・ローク、ロザンナ・アークェット、ジャン=マイケル・ヴィンセント。低予算の映画と は思えない顔ぶれ。これも彼の人徳かもしれないわね。恐るべし、ヴィンセント・ギャロ!

J/ 恐るべしと言えば、クリスティーナ・リッチ。なんかすごい貫禄が出てきたね。年上の男をあんなに優しく包 みこんじゃえるなんて。まだ10代だよね。かつてのジョディ・フォスター、それ以上になりそうな感じに なってきた。彼女はタダ者ではないよ。

B/ この映画は、ちょっとした流行になっていて、今すごい混んでいるけれど、映画自体は決して流行に乗った ものなんかじゃなくて、とってもしっかりとした映画なの。ヴィンセント・ギャロがいきなりこれほどの作 品を作ってしまったことが、一番の驚きね。

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