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第61回「ラン・ローラ・ラン」

ラン・ローラ・ラン 監督…トム・ティクヴァ 、 脚本…トム・ティクヴァ
撮影…マティルデ・ボンフォイ 、 音楽…トム・ティクヴァ
キャスト…フランカ・ポテンテ 、モーリッツ・ブライプトロイ


1998年ドイツ/上映時間1時間21分
CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ これは、ちょっと変わった映画だったな。ドイツ映画は時々こういう変わったやつが出てくるね。『ブリキの 太鼓』『シュガー・ベイビー』『バグダッド・カフェ』みたいな。他のヨーロッパの国とちょっと違った感 覚がある。

B/ 物語の分量から言ったら、わずか20分間の話なのよね。しかも物語りの間中、主人公はひたすら走りまく っているだけで、それなのになぜかドラマチックなのね。20分間のドラマが、繰り返される。もしあの時こ うだったらどうなるだろうって。その運命の変わり方がドラマチック。彼女が触れた他の人の運命まで巻き こみながらね。

J/ ローラの走りっぷりがいいよね。たくましくって。お尻なんかドーンとしていて、とっても立派。ドイツの 女性っていうのは、大体が骨太なのだけれども、彼女もその例に漏れない。といっても、まっ赤な髪の毛が とってもキュートなんだよ。

B/ ドイツでは彼女を真似する女の子が最近多いんだってよ。あっ、もちろん走るのじゃなくて髪の毛ね。

J/ 走る映画っていうのも色々あるけれど、躍動感という点ではこれが一番だよね。

B/ そうねぇ、美しさでは『炎のランナー』、努力賞ものでは『フレンチ・コネクション』、暑苦しさでは、マ イケル・ダグラスの『ランニング』なんて…ネクタイ、ハチマキにして走ってるやつ(笑)

J/ この映画のテーマは「タイム」。タイトル・バックを何かが右に左に通り過ぎていく。何かなぁって思って いると、これが振り子であることがわかってくる。振り子がカチッカチッて時を刻んでいる。そのカチッカ チッが段々早くなってきて、走るリズムになってきて、それがそのまま音楽になっていく。思わず引きこま れちゃうね。

B/ 時計の全貌が見えてくると、時計の上のほうに悪魔が座っていて、まるで時を管理しているよう。それでそ の悪魔の口にカメラがズーンと入っていったら、もう映画の世界よ。

J/ 映像に音楽がシンクロしているっていうより、音楽が映像を引っ張っているような感じ。この感じなにかな ぁと思っていたら、チャップリンの『モダン・タイムス』を思い出した。チャーン、チャチャチャ、チャチ ャチャチャーン、ズンズンっていって時計のアップが映って、次に群集が駅から牧場の羊のように吐き出さ れるやつ。

B/ 『モダン・タイムス』の場合は、トーキーへの抵抗ってことで、チャップリンが効果音の変わりに音楽で表 現したからああいう形になったのよね。

J/ テーマが「タイム」でこういう始まり方をするのって、とってもドイツっぽい感じがするね。『モダン・タ イムス』もそのタイトルの響きが、ドイツ的だし、これも元々はドイツ映画の名作『メトロ・ポリス』の影 響を受けているからね。だからこの映画はやっぱりドイツの香りがするなぁって思っちゃった。

B/ この話自体が、時間にきっちりしているドイツだから成り立つものだしね。これがインドとかマレーシアじ ゃ、成り立たなくなっちゃう。「いいよ、いいよ1,2時間遅れたって。どうせ大した違いはないよ。」 これではねぇ。(笑)

J/ ドイツっていうことでもうひとつ言えば、彼女の叫び声が『ブリキの太鼓』のオスカルと双璧だったのも面 白かった。「ギャーッ」ってやると、ガラスが割れるやつ。(笑)

B/ この映画のユニークさは、音楽とそれに乗っかった映像にあるわね。

J/ 冒頭から走る息遣いをそのまま曲にしたみたいな、テクノ音楽に乗って映像が踊るね。細かいカット割が、 音楽のリズムとシンクロしていて、すごい迫力がある。

B/ それが映像に音楽を乗せるのではなくて、音楽に映像を乗せているような感じなのね。

J/ アニメーションやビデオ映像、スチール写真、モノクロ映像、これらを混じり合わせて細かいテンポで切って 行く。とてもリズム感があって気持ちがいいんだね。

B/ スピード感があるわね。

J/ それと、予告編でアニメの部分はどういう感じで使っているのかなと思っていたら、大変うまい使い方をし ているので感心した。スチールの扱い方にしてもそれぞれにちゃんと意味があってやっているんだね。そこ のところが、ビデオ・クリップとは一線を引いているところだと思う。

B/ 例えば?

J/ アニメーションのシーンは、タイトル・バックで時の渦の中に彼女が吸い込まれていくみたいなイメージで まず使われているね。次に出てくるのは、彼女が家から出て階段を駆け下りて行くところ、ここだけがアニ メになるんだね。ここでは、いつも猛犬を連れたイジ悪そうな男がいて、彼らだけがなぜかいつも違った行 動パターンを取るんだね。

B/ ああ、それによって時間が微妙にズレてくるのね。そのためにこれから起こる出来事が微妙に変わってくる のね。

J/ そうそう、いわばあのアニメの場面は、マジック・ボックス。運命を変える「時」のマジックが起こる場所 になっているんだね。タイトル・バックのところとちゃんと連動しているんだよ。

B/ 最近、ちょっとしたことで主人公の運命が変わっていくみたいな映画が多いわよね。『スライディング・ド ア』も電車に乗り遅れた、ただそれだけで運命が変わっていくっていうドラマだった。この映画はそれに大 変よく似ている。

J/ この映画はその後20分間で運命が決まっていく話だったから、さらに内容が濃くてドラマチックなんだね。

B/ ドミノ的人生論っていったらいいのかしら。実際日本のドミノ倒しのゲームの中継がテレビで流れていたり して(笑)走ることによって人生を突っ走るというのは、マルセル・マルソーのお芝居にもあったけれど、ほ んのちょっとのつまづきや、機転で運命がドミノ倒しのように変わっていくっていうのは、とても面白い。 人生から様々な枝葉を取り去って、象徴化するとやっぱりこんな風になるかもしれないわ。

J/ ちょっとロール・プレイング・ゲームにも似ているね。ゲーム・セットになる度に最初からやり直してね。 その時の選択によって筋が変わっていくってゲームがあるよね。

B/ ただひとつ違うのは、テレビ・ゲームは。セーブ機能を駆使して、失敗したところからやり直せばいいけれ ど、この映画はいつも出発点に戻ってしまうところがねぇ。

J/ そうそう、3度同じことを繰り返すとちょっと早回ししたくなってきてしまう。(笑)

B/ 見せ方にもうひと工夫があってほしいところだったわね。とはいえ、リズム感があるから、それがこの映画 を台無しにするものではないけれど。ハリウッド映画を見飽きた人には、特にお勧めしたい映画だわね。こ んな映画もあるのかと、驚くこと間違いなしね。

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