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第23回 「桜桃の味」

CASTジャック&ベティ
ジャックの評価 /ベティの評価

…金かえせ!! / …いまひとつ
…まあまあ/ …オススメ
…大満足!!観なきゃソンソン


J/ いやー、これもう良かったね。僕の今年のベスト・ワンは早くもこれで決まりだね。「○○の味」

B/ いやねー、今なんて言ったの。そんなに良かったと言ってて読めないのね。「桜桃(おうとう)の味」 これ、サクランボのことよ。

J/ いやー、まったく面目ない。

B/ ところで、あなたはお墓っていうとどういうイメージ持ってる?

J/ うん、ヨーロッパは大抵街の中にお墓があるんだよね。大抵深い木立に囲まれていたりして、 緑の美しいところにひっそりと佇んでいる。そんなイメージを持っているな。

B/ 地中海当たりに行くと、海と空をバックに墓地が広がっていて、死んでも美しい所で 眠っていたいっていう人々の願いがこめられているようよ。

J/ 日本の古い農家などは、家の敷地の中に先祖のお墓があって、亡くなっても身近な所 にいてもらいたいって、そんな思いを感じるね。

B/ お国によってそれぞれ思いはちよっと違うみたいね。それでイランのはどうだったかっていうと、 これはまた、随分と殺風景なところにあるのよね。

J/ 街からちょっと離れた、埃っぽい赤茶色の山の中にあるんだね。

B/ 生の世界と死の世界がはっきりと分かれてしまっている。そんな印象を私は持ったわ。

J/ 木もろくすっぽ生えてなくって何か寒々しい場所なんだね。

B/ そうそう、この映画の舞台設定として、こういう街を選んだことが、テーマを明確に する上でとても効果的な役割をしていたと私は思うのよ。

J/ 随分長い前フリで。それが言いたかったんだな。ウマくのせられた。

B/ この映画の主人公っていうのは、「明日自殺しよう」と決心してるのね。

J/ 主人公が、今まさに死のうとしているなんて、本来なら滅入ってくるような設定だよな。 理由はなぜだかわからないんだね。確か。

B/ そう。理由が分っちゃうと、「何だそんなことか」って思われた時点でこの映画の意味 がなくなってしまうからね。

J/ 男は自分が自殺をやり遂げた後に、誰かに埋めてもらいたいんだね。それで、車でもって やってくれそうな人を探しまわるんだね。

B/ 最初は賑やな街で車をゆっくりと走らせているんだけれど、 曲がりくねった道を段々と上がっていって、いつか殺風景な山の中へと舞台は移っていくのね。 それが、生の世界から死の世界に男が近づいていっているといったイメージを与えたのね。

J/ 男がお墓として決めた場所からは丁度街が一望できて、風に乗って賑やかな若者たちの声なんかが 聞えてくるんだね。荒涼とした風景が、生からこの男を隔ててしまった。そんな感じがする。

B/ 男は途中、色々な人に声をかけるの。新兵や、プラスチックのゴミを集めて、辛うじて 生計を立てている人など。皆それぞれに困難を背負った人たちでね。

J/ そりゃ、人を埋めるなんていうけったいな仕事を喜んでやる人なんているわけないじゃん。 必然的に声をかけるのはお金に困っていそうな人になるよな。だから彼は「あなたは どういう家族がいるのか」「お金は困っていないのか。」って仕事を引き受けるかどうか 判断するために、いろいろプライベートな質問をしてたんだね。

B/ キアロスタミ監督は例によって、素人さんの肉声をここで引き出しているのよ。だから 凄いリアル!観ているこちらまで、次は何を聞かれるんだろうって、ドキドキしてきちゃ うのね。

J/ 一つ一つの言葉に説得力があったよ。みんなそれぞれ苦労してるんだよな。

B/ 「悩みがあるからといって死んでしまったら、人間なんか滅んでしまう」ってセリフが あったわね。そこなのね。

J/ だけど、この映画はこんな滅入ってきそうな設定なのにちっとも重さがなかったね。

B/ 暗くないのね。むしろ、「生の喜び」に満ち溢れた作品だと思うわ。これは、いわば 逆説なのよね。「死」を考えることでかえって「生」の美しさが際立ってくるという。

J/ 話が個人的なことになっちゃうんだけど、僕が入院していた時のことを思い出したんだ。 僕が入院してた所は、呼吸器科でね、結構重病の人が多かったんだよ。

B/ お見舞いに行ったけど、確かに顔色の悪い人が多かったわよね。

J/ 現実に、隣の病室の人とかが次々と亡くなっていったんだよ。それがとてもショックでね。 あんなに身近なところに「死」を感じたことがなかったからね。

B/ 1ヶ月くらい入院してたのよね。

J/ うん。退院して、その世界から抜け出し、タクシーから街の様子を観た時にね、世の中 ってこんなに美しかったかなぁって思ったんだよ。街を歩いている人たちがとても眩しく 見えたんだ。

B/ これは体験してみなくては、わからない感覚かもしれないわね。

J/ ところがね、この映画はその感覚がそのまんまフィルムに焼き付けられているんだよ。 これが「生きてる」ってことなんだっていうその感覚が。すごいもんだね。

B/ 私もこの映画を観て、あなたの言うその感覚が確かに分ったような気がしたわ。

J/ 色々と「生」と「死」をテーマにした映画ってあったけど、こういう感覚の映画は初めて だったね。

B/ 宗教とかその国の文化とかを超越してるのね。良いセリフも山ほどあってね。あれは 本当の体験から出てきているのかしらね。そうとしか思えないのね。

J/ この映画を観ていると、明日から大切に生きていこうって気にさせられちゃうよ。大 傑作だね。この映画は。

B/ まあ、殊勝なことを言って。昨日はダラダラと家で寝てたってさっき言ってなかったけ。

J/ いや、あれは迷想をしていたんだ。瞑想?ちっ、いつも一言余計なんだよな。

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